真三國志
刹那のミニミニ小説+連載小説のサイト。
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2008年07月22日(Tue)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−19−
(あれほど俺に従ってさえいれば、そのおこぼれに預かり出世を出来ると思って付きまとっていたのに、急に態度を変えやがって。)
関羽は腹立たしい思いで酔っぱらいを置いて外へ出る。 暖かい風が吹き込む。何となく不愉快があっぷするがそれでも風に当たることで関羽は少しずつ落ち着きを取り戻す。 (あの傷ついた獣のように人を威嚇するしか術のない張飛を、どうやってあの玄徳はてな付けたのだ。) そんな疑問が沸き、使用人の一人に玄徳の居場所を聞く。 「玄徳様なら、昨日の草むらで、大規模な演習を行っています。」 「演習?」 「程なんとかと言う黄巾党の将軍が暴れ回っていて、それに対して口に出さないが挙兵するという事なんでしょう。」 (馬鹿な。) 黄巾党の程の軍勢は3万と言われる軍勢で官軍ですら手が出せない優秀最大の反乱勢力である。玄徳の軍が500だか1000だが分からないが相手は数十倍である。勝てる相手ではない。 (演習か。) 訓練を行っているというのなら、それに対しての秘策が見れるかもしれないし、張飛の心を動かしたという玄徳の軍隊の状況を見れるかもしれないのである。 関羽はその場所に向かうと、訓練を一通り見ることにした。 その時玄徳の軍はたくさんの馬をその草むらに放した。 その馬を敵に見立てて、集団で追い込んで行く。 その都度玄徳は軍を止めると一人の兵士に細かく手綱を持ち方などを教え、また訓練を再開させる。また、軍を止めて今度は徒で槍を持つ男に構え方と細かい動きを指導して、再び軍を動かす。 (意外と深い考えを持つようなタイプに見えなかったが、細かいことを言う男だ。) (かなりやり方はともかく、細かいところについては独創的だな) と関羽はその訓練を行う。 そしてあっという間に玄徳は演習を終わりにして、引き上げを命じ、細かく指示をしていく。不意に関羽の顔を見ると、残りの指示は人に任せると、関羽の所へ真っ先に近づき笑顔を見せる。 (なぜ見に来ている)とか(昨日戦った張飛と一緒にいたことを問いかけてくる)とか思ったが玄徳はそう言うことを聞かずにニコニコしていた。そして単刀直入に「どうだったか」と関羽に聞く。 (この男、単に自分の軍隊を見せびらかしたいだけなのか。) そんなことを思いながら、でも愛想でも認める言葉は彼の自尊心が許さないらしく辛口に評価する。 「丁寧に一人一人教えていますし、ずいぶん独創的というか工夫はしていることは分かります。ただ、」 「ただ。」 「いかにも素人くさい訓練の仕方だと思います。個々の能力は伸びているかもしれませんが、戦いは集団をどう統率していくか。1人一人の力を結集して、2や3にしていかなければならないのですが、そう言う組織力については上手く指導が行きどどいていないと思います。」
2008年07月21日(Mon)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−18−
「どうしようか。」
とりあえず張飛はもう一度頭の中で玄徳が言った言葉をなぞってみた。 そして自分の身のあり方を考えるが、元々深く考えることが苦手な張飛は人を頼み関羽を呼んで来てもらう。 関羽が来たのは翌日であった。玄徳の許に連れ去られたのにもかかわらず、迎えに来るまではかなり時間がかかった。 正直関羽にしてみたら、張飛がどうしようとあまり興味がなかったし、玄徳が面倒を見てくれるのならやっかい払いできたと彼は思っていたのである。 だから隠していたが嫌そうな顔をして彼は向かいに来た。張飛が玄徳の言った内容について相談したが、あまり芳しい返事でなかった。 「お前が従いたければ、従えばいいだろう。俺は玄徳という奴に従わなくても、今の県令からは何かあったら力を貸して欲しいと言われておるから、義勇軍とはいえ素人連中だ。そんな奴らの力を借りる必要はない。」 「まあ、そうだな。」 別段喜びもしない(別に関羽に対して玄徳が言ったわけではないし、関羽にとって張飛が認められようがどうしようが興味もない訳である。)関羽に対して、正直がっかりしたし、他の人と同じような厄介者を相手にするような態度をうすうす気がついたのか張飛は思わず酒を口にする。 「おい、酒を飲んで暴れるなよ。やっかいを起こしたら酒場でけんかをするのとは違うぞ。」 関羽は酒乱の癖がある張飛をたしなめるが、不思議と張飛はこの日に限り少しも酔いそうな気がしなかった。 それどころか、玄徳の言葉が胸にこだましており、そっちの方に酔っているかのように、気持ちは奪われていた。 (みんなみんなそうだ。関羽のように友人面している奴も、両親のように好き勝手にやらしてくれるが家業を継がせてくれない奴も、俺の力を尊敬し(←それを人は恐れているという)手下になっている人間も、あの草むらでの時のように本当は信頼なんか出来ない。みんな俺様のことを厄介扱いしていて、誰一人本当はまともに扱ってくれないのだ。) (それなのに玄徳という男はどこか違う。少し馬鹿っぽいところもあるが、俺の才能を素直に買っているようであった。大事に扱ってくれた。) 不意に関羽の態度を見ながら不意にある思いが浮かんでくる。 (遙かに兄者の方が将軍として優れているから、俺は従ってきた。でも、俺様の命を賭けて従うべきなのは、俺様のことを一番評価してくれる人なのではないのか。 それに答えて戦い、死ぬことこそ本当の幸せではないだろうか。) (心の中で厄介者扱いする奴らなんかより、少し馬鹿っぽいこの男の方がよほど俺の気持ちや働き場を与えてくれるのではないだろうか。) 目を据わらせながら、そんなことを考え張飛は関羽を無視するかのように酒を飲み続ける。
2008年07月20日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−17−
(そういえば)
玄徳という男は思い起こすと始めてあったときから張飛を決して軽くは見ていない。 (「10万の軍と対峙する将になる男だ」) と言うことを彼は言い続けていた。 常に張飛の力を評価する態度で接し続けていた。 それを裏付けるように玄徳は言う。 「手下になれ。とは言わない。ただ良かったら力を貸して欲しい」 「お前のために何故俺が働かなければいけないんだ」 言い方を変えただけだろうと、反発をする張飛。 玄徳はそれに対して首を振る。 「お前自身のためだよ。」 「俺のため……?」 お前の武勇なら、戦いの中では真っ先に戦陣を切るだろう。 戦いは緻密な戦略が勝敗をもたらすことがあるが、多くの場合戦いを決するのは勢いだ。最初の激突で部隊の士気は大きく変化する。 相手が烏合の衆であったり、統制が取れていなかったりすれば、それだけで勝敗が決する場合があるし、初戦を制するかどうかで全体の流れが決してしまうことがある。 「初戦を制して勝つことが出来れば、その勇名は戦陣を切った者となる。 それにお前の武勇で敵の多くの首をあげることが出来るのなら、貴方の武勇は大きく宣伝される事になる。」 そうなれば張飛の出世の道は開かれるのである。 「それに最初に言ったが、これからは騎兵による集団戦が戦いの主になっていく。例えそうでなくても、将は徒ではない。馬に乗り指揮をしなければならないから、その技術に優れていることは決して損にはならない」 そして馬術を習得するには馬商人である張の手下はその道の専門家だ。なにより玄徳はあれだけの荒馬を乗りこなせる能力がある。 彼の言うとおりここにいてそれを習えば、将として必要な技術を習得できるかもしれない。 「と言うわけで、まあゆっくり考えて欲しい。」 そういうと部下に酒を持ってくるように命じて、席から離れる。 「敢えてそなたが酒が好きなことを分かっていて、敢えて我慢してもらったのは、真剣に話を聞いて欲しかったからだ。 言うことは言ったから、ここにいる人間に迷惑を掛けない程度なら酒を飲んでもかまわないから、今日は客人としてゆっくりしていけばいい。」 そういうと言うべきことは言い終えたという感じで、玄徳は席を外していった。
2008年07月15日(Tue)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−16−
一方玄徳に連れ去られる張飛は素直に言うことを聞く男ではなかった。
「はなせてめぇ、俺様をどこへ連れて行くんだ。俺様が本気になればお前なんか。」 馬上なのにまだだだをこねている。 そんなことをしていればかなりの速度が出ているので馬から落ちれば大けがをするかもしれない。 (まあ、谷から落としてもこいつなら死なないのかもしれないが。) 「飯を食わせてやる。」 玄徳は短く言い放つ。高圧的かもしれないが、不安定な荷物を運んでいる以上、いくら馬術に優れていると言え、余裕がないのである。 張飛は飯と言われておなかが一瞬なってよだれが出そうになる。 「テメエ、誰が飯なんかで連れられるか。」 慌てて文句をあげたが、「そうか」といって玄徳が突き落とそうと、慌てて「ちょっと待て、食ってやっても良いぞ。」と譲歩する。 「そうか、飯を食べて酒が抜けたところで話そうや」 そう言って玄徳は馬を走らせ、張の商店の住み込みへ案内する。 「見せたい物がある」 そう言うと、玄徳は奥へと案内する。 そこでは1000名の若者達が槍を振って稽古をしている。 「たいしたもんだ。」 張飛は素直に感心する。彼自身50人の人間を集めるのに苦労したのである。その苦労を考えると深い意味はなく感心した。 「いや、駄目だな。」 玄徳はせっかくほめられたのに、あっさりと否定すると、食事の席を用意している奥の間へ案内する。 「どうして。これだけの人数は一つの部隊ぐらいあるぜ」 疑問の声を上げる張飛に対して、玄徳はその彼を指さし断言する。 「お前のような一騎当千の者なら、簡単に蹴散らされるだろう。この軍隊にはまだ二つ足りないのだ。お前のような勇気とあともう一つが。」 「お世辞かよ。冗談はよしてくれよ。」 照れていても自尊心が高い上に単純な男である。張飛は悪い気がしなかった。 「……冗談だと思うのか。」 玄徳も笑う。違う意味で、 「さっき言っただろ。これからの戦いは騎兵の時代。一瞬の駆け引きが勝利を分ける時代になると、そう言う場合お前のように本当に勇気のある者が居なければ所詮烏合の衆。相手の気勢を制することが出来ない。 気勢を制することが出来なければ、後手に回ることになり不利になる。そう言う時代になっていくんだ。これからの乱世は。」 それだけ言うと、玄徳は張飛に食事を勧める。 すると張飛はついいつもの癖で「酒をくれ。」と周りの者に頼む。 「それは出来ない。」 玄徳は笑ってそれを拒絶する。 「酒を飲ましてもらえば、貴様の手下になっても良いと思うかもしれない。」 今度は張飛が子供のような無邪気な笑顔で、冗談めかしくいう。 まるで虎が猫のようにじゃれてきているような様子である。 でも玄徳は少し気を許しつつある張飛に対して真顔で言う。 「よせ、酒を飲んで暴れれば貴様を切るかもしれないぞ。」 「がははっ。テメエのような非力者にたとえ酔っていたとしても俺を切れる訳がなかろう。」 「だったら、酒を飲んでいい気に眠ったら剣を突き刺してやろうか。」 冗談めかしていって居るが玄徳は全く笑っていない。むしろその目つきはちゃかす張飛をとがめるような色を帯びている。 「テメエ、やっぱり俺を殺そうと。」 (殺して何の得があるんだ。) 玄徳は口に出さなかったが、その言葉を受け流す。 「もし殺す事が出来なくても、腕一本ぐらいなら切り落とせるかもしれない。その手の腱を一本ぐらい傷付けることぐらいなら出来るかもしれない。 そうなったら、せっかく万を超える軍と渡り合える能力と技量があるのに、こんな事でその力のいくらかを失うことになったら、せっかくの力がもったいないとは自分で思わないのか。」 突然の声掛け。その時張飛はそんなことを考えたこともなく、言われたこともなく首をかしげる。
2008年07月13日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−15−
その数の多さに、ある一つの結論に結びつく。
「玄徳の野郎。油断させている間に手の者を使って数で俺様を殺そうとしやがって。」 そう苛立ちながら、突然草むらから襲いかかった人影を交わすと、矛で刺し貫こうとして、あわてて止める。 「お前は俺の手下の一人。玄徳の手下から俺様を助けてくれるとは見事な忠誠心」 と言いかけてあわてて、そいつの二撃目をよける。更に息をつく暇もなく、後ろから竹槍が襲ってくる。 あわてて張飛はよけたが、腕をかすったせいか服の下から血がにじみ出る。 「テメエら。俺の手下だろ、何故玄徳を襲わず俺を襲うのだ。さては玄徳にお前ら買収されたのか。」 「うるせぇ、そんなの関係ねー。胸を押さえてテメエが俺達にどんなことをしたのか考えてみろ。」 そう彼らが叫ぶので、張飛はあわてて胸を押さえ考えるが思い当たる節がない。 「裏切りは、男として恥ずかしくないのか。俺はお前らに恨まれることはない。」 彼は断言して不思議そうな顔をする。だけど、関羽にとって見れば彼らが怒るのは別段不思議ではない。酒を飲んで暴れては人を殴ったりすることを楽しんでいる男である。そんな奴に彼らはただ張飛への恐怖のあまり従っていただけである。 その恐怖が玄徳に軽くあしらわれたことで壊れた。そのチャンスを突いて積年の恨みを晴らしたいし、それ以上に従い続けていればいつぶん殴られて殺されるか分からないからその恐怖を取り除きたかったのである。 「テメエのような酒乱野郎に従っていれば俺達の命がどうなるか分かったもんじゃねえ。いつも叫ぶので飲んで意味もなく俺達を殴ったり鞭でうちつけたりしやがって。 殺される前にぶっ殺してやるだけだ。」 そう言って襲いかかった瞬間 「待て。」 と短く叫んで玄徳が彼らとの間に立つ。 「何だこの耳デカ野郎。」 張飛達の手下は殺意で気が立っており、言ってはいけない言葉を口にする。 一瞬玄徳は不愉快そうな顔をしたが、すぐにいつもの丁寧な口調で彼らに言う。 「なぁそう言う心配はもっともかもしれないが、彼はこの後10万の兵を向かい打つような大将になる男だから、勘弁して見逃してもらえないだろうか。」 「うるせいっ、敵の施しなど受けん。こんな雑魚など俺様なら一蹴してやる。余計な口出しをするな。」 助けられる形になってしまった張飛は思わず玄徳に抗議する。 確かに彼の言うとおり張飛が彼らに囲まれたとしても殺されるとは玄徳は思っていない。 「とはいえ、降りかかる火の粉と言え多くの者を傷つけるようなことがあれば州の役人達もほっておいてはおかぬだろう。 お前は一軍の将として大軍を迎え撃てるだけの力を持つ豪傑だ。 つまらないことは気にするな。得な方を取れ。 君たちもこいつを殺せたとしても、何人の仲間が死に傷つくのか分かったものではない。無理をするよりもそれよりは私にここは任せた方が得だと思うよ。 今までのようにお前達を傷付けたりしないことを約束しよう。」 「うるせいっ」 一度殺すと腹をくくったせいか、張飛の手下達はかなり気が荒く説得など、聞く様子もない。もとより玄徳もこれほど冷静さを失っている双方に説得が通じるとは実際は思っていなかった。 無理矢理、張飛の体を抱き起こすとにらみ合っている彼らを前に強引に馬に乗せる。 「約束は守る。だから失礼する。」 そう玄徳は短く良い、張飛を乗せたまま駆ける。 手下達は所詮手下なので馬に乗る者だと居るはずもなく、呆然と立ち去る玄徳らを見送るしかなかった。
2008年07月09日(Wed)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−14−
だから敢えて相手の間合いにまで張飛は仕掛けない。
玄徳はまっすぐに剣を振り下ろす。 お互い手綱をもって戦う分片手で剣を振るうが、長い矛に比べて剣の方が支点が短い分、玄徳の方が有利であるが、張飛の方が圧倒的に握力が強い。 あっさりと玄徳の剣を矛ではじき飛ばすと利き腕を狙う。 だが、その手綱を持つ利き手が張飛の視線から消える、 (手綱を放した?) 次の瞬間、思いもしないところから剣が落ちてくる。 「くっ」 何とか野性的な運動神経でそれを視界にとらえとっさに矛で体をかばう。 (手を手綱から放して、二刀流で剣を振りかざしたのか。) 一瞬の驚愕で防御が遅れ、その分バランスを崩し馬から落ちる。 「くそっ」 地面にたたきつけられた痛みで胸を強くたたきつけられ息が詰まり涙が出る。それに対して手綱を放した玄徳はそのまま右左の両手でそれぞれ剣を手に構えている。 落馬した張飛と対照的である。 「かっ・・・・」 「勘弁ならないか。」 関羽は張飛の悔しさを代弁したかのようだが、その瞬間張飛は素の状態で玄徳の並はずれた馬術に心ひかれていた。 (かっちょいいっ) 張飛は根が単純なのである。 とはいえそれで負けを潔く認められるほど人間は出来ていない。 「負けるもんか」 そう思いながら、がむしゃらに玄徳の所へ徒歩で襲いかかろうとする。 その刹那脚に火箸を付けられたような熱さを感じ痛みを感じる。 「なんだ。」 もう一度転び、あわて手足を見る。脚から鮮血が流れる。 「畜生。」 叫びながら立ち上がろうとする最中、自分を囲むように人のうごめく気配がする。
2008年07月08日(Tue)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−13−
「劉備という奴の馬があれだけ走るのが分かった以上、このままだと相手が絶対有利だ」
よく考えれば玄徳の馬は多分支援者の張の用意した馬だ。張はこの辺の幽州一帯の馬を預かっている商人だから。 (多分玄徳の乗る馬は売り物の中で特に選りすぐりの良い馬だ。) 少し言うことを聞かないだけで良い馬でも「肉にして売っちまうぞ」と言うような張飛に良い馬が手にはいるわけはなく、すこし考えただけで馬の優劣の差ははっきりしている。 玄徳が戻って来たところで関羽は彼に言う。 「玄徳殿、馬を変えてもらえぬか。このままでは私達が不利だ。」 「……??馬は乗り慣れた物が良いと思うが。」 そうは思ったものの玄徳は執着することなく馬を下りて手綱を張飛に渡す。 「お前の馬を貸せ。」 代わりに手下の中で一番調教が済んでいない気性の悪い部下の馬を彼が乗るように張飛は指示をする。 「なるほど良い馬だな。」 与えられた馬は骨量が大きく馬格がしっかりしていて前足も普通の馬よりも太い。 あれだけ走るのも納得いく気持ちで張飛はその馬にまたがった。 しかしその瞬間白目がぎょろっと敵意を込めて彼を見つめた瞬間、叫び声のようないななきをあげて立ち上がろうとする。 「こら。やめろよせ。」 張飛は何とか首にしがみつき振り落とされないように耐える。同時に馬の首をきつく腕で締めて力づくで馬を押さえようとする。 一行の玄徳の方の馬はそれ以上に暴れたが何事かもないようにバウンドする馬の体に合わせてタイミングを取りながらされるに任せていたが、逆に馬の方がすぐに疲れて大人しくなる。 「いいうまやなぁ。」 気に入ったように玄徳は感嘆の声を上げる。 (どこがや。) 乗せられている馬も気性が悪く決して良い馬とは言えない。それなのに玄徳は楽しそうに乗りこなしている。一方張飛が今乗る馬は気性が良くないことももちろんだがパワーがある分、余計難しいと思われる。腕力が強いから張飛は何とか乗っていられるが、そんな馬を玄徳はあれだけ素早く乗りこなしているのである。 「こら大人しくしろよ。あの腕力で頭殴られたら殺されるぞ」 そう言って、玄徳は先ほどまで乗っていた馬に近づき首筋を強く叩いてコンタクトを取る。それで何とか馬は玄徳の命令で落ち着いて、それなりに乗れる状態になる。 「……やっぱり乗りこなした馬がいいでしょ。」 そう哀れみの込めた目で見つめながら張飛に忠告する。 (畜生。馬鹿にしやがって。) そう思いながら、一瞬だけそうしてくれたらうれしいと本音が漏れそうなのを思いとどまり、拒絶する。 「断る。」 (なになに。気性が多少悪い所を見せただけで、玄徳が居れば馬は落ち着くらしいから……逆に乗りこなしてしまえば、こっちらの馬の方が素早さも力も上だ。) 相手の方が馬を上手に乗れることは認めざる負えないが、別に玄徳とかけっこをするつもりではないのである。 「お互い目的地までの早さを競うわけではなく、お互いが獲物を振るい勝った方に従うと言うことでいいよな。」 「・・・・」 嫌だとは言わないが、玄徳は面倒くさそうな顔をする。 「今は力の時代ではなく、馬の時代と言い切ったんだ。当然力には屈しないと言うことなんだろう。」 張飛は勝手に決めつけると、早くも一騎打ちをするために間合いを取ると、玄徳が馬の快速を使ってさっきのように消えてしまう前に、突進する。 「いきなりかよ。」 玄徳はそう叫ぶと腰にある二振りの剣の内少し長めの一本を抜きあわてて彼の突進に身構える。 それに対して張飛の獲物は蛇矛。長さでは圧倒的に有利である。 (ただ勝つのはつまらない。自分の馬術をひけらかす野郎を馬から突き落としたいなぁ。) それと生意気そうな玄徳(と言っても玄徳の方が年長であり、自分がいくら薄汚い髭面の所為で老けて見えてもそんなことを言われる筋合いはないのである。)であっても、仲間は一人でも多い方が良いし、男と男の勝負(と張飛は勝手にそう思い大義名分化している)とはいえ殺したら面倒になりそうなので、一刺しするよりもむしろ (俺様の日頃の豪放な性格からおおざっぱな性格のように思われているが武術に対しては、遙かに技術は上であり、繊細だから。) 相手が剣を振り下ろしたらそれを矛で迎え撃つと、片手で持っている手綱の手に隙が生まれる。そこを狙えば相手も両手を放せばさすがにあんな気性の良くない馬だから落ちてしまうので放すことは出来ないだろう。 手綱を持ったまま手を切り落としてしまえばさすがに言うことを聞かないといけないだろう。 そう思い激突の瞬間、玄徳の攻撃を敢えて張飛は待つ。
2008年07月04日(Fri)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−12−
それに張飛は絶対そうは見えないのだが、良いとこのお坊ちゃんである。
小さい頃から親に馬も与えられたし、肉屋の商売で物を運んだりするときに馬も使う。 あと働きが悪いと、食べたりするほど (馬とは友達なのだ。) 「だから道楽で馬乗っている奴とは分けがちがう。」 大体馬が上手く乗れるからと行って、張飛の豪腕があれば力づくで馬から突き落とす事が出来るのである。 「たとえ馬に乗っていても俺様に貴様のようなひょろひょろした奴が勝てるわけがない。」 「じゃあ参る。」 自信満々に張飛が答えると、しめたとばかりに玄徳は馬に拍車を入れる。 「さあこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ」 と叫びながら玄徳は馬を駆け、張飛と関羽の許から消えていく。 「・・・・疾いっ」 玄徳が走り出した瞬間馬は翼を持ったように足場の悪い草原を駆け抜けて行った。 あれだけ馬を速く走らせる男を騎馬民族の出身の関羽も見たことがない。 (恐るべきっ、玄徳。) 「っていうか、戦う相手が逃げちゃったけど、どうするんだよ。」 張飛の言うとおり感心している場合ではないのである。 取り残された二人には笑いが落ちなかったような微妙な空気が流れる。 半時ほどして蹄の音が近付いてくる。 「玄徳。逃げ切れぬと思って戻ってきたか。」 張飛がやっと獲物が戻ってきたことに安堵した……が 「通り過ぎてどうするんだよ。」 また颯爽と玄徳は通り過ぎていく。 「なんて楽しそうに馬を乗るんだ。」 強敵を相手にしているのに相手は全く気負っていない事に関羽は驚きを持つとともに、気負いこそが体を硬くして自らの動きを奪うことを考えたら、その余裕こそ本当は恐ろしい物だと関羽は思い考えさせられる。 「っていうか、兄者そんなこと言っているから、次回に対決が持ち越しになってしまっただろ」
2008年07月03日(Thu)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−11−
「口ばっかりの政府が一体何が出来るというのだ。
この世を制するのは圧倒的な力。すべての人をひれ伏せるだけの力こそ必要だ。 俺様を何人も従わせることなど出来ない。逆に俺の力ならどんな奴でも1対1なら負けるわけがない。ひれ伏せることが出来る。」 張飛はそう言い切り染めた力を誇示するように大声で叫ぶ。 張飛の手下達はその声だけでびびりそうだった。 「同感だ。」 玄徳はそう言ってうなずく。 「張飛とやら、貴方が言うとおり口だけの者や、保身や目先の利益をつかむだけで、礼節を説き、こざかしい策を巡らせる者に、人を率いて従わせることなど本当は出来はしない。 痛みが分からないものに誰が必死になり戦おうとするというのか。」 でも彼の答えは少し違っていた。 「でも貴方は一人の力でひれ伏せると言ったが、たった一人では一人を従わせることは出来ても、すべてを統じる事はできない。 一人ですべてを力づくで従わせようとする事はとても骨が折れることだ。」 玄徳はそんな面倒がとてもやっかいそうに苦笑いをすると、馬のたてがみをつかみ軽やかにその背中にまたがる。 「張飛・・・・貴方は馬は得意か。」 「……」 「董卓に、公孫讃…… これからの戦いは、馬の戦いになる。 一人の武勇ではなく、いかに人を動かすか組織的に動かすせるかが勝負になる。 そうだよな、関羽殿。」 突然フラれて関羽は戸惑う。 「国を豊にとする者は多くても現実として、税から人は逃げていくし、兵力を持つ輩が根こそぎ持って行く。 また知略も時に必要だが、策だけを要する者は信用されず、小賢しい駆け引きは本当の将や結束の敵軍に対しては現実には決定的にはなりづらいし。」 「……」 難しくて分からないが、自分の言うことを認められた感じが張飛にはほんの少しだけした。だが、同時に彼の中に「本当は自分の言うことなど人は馬鹿にしている。」という思いがどこかに大きく存在して、玄徳に対しての憤りに近い何かはどんどんふくらんでいく感じがした。 (よく考えろ翼徳。馬が得意か、と言う問いかけはこの耳でか男は本当は俺様が馬など乗れないと馬鹿にしているのかもしれない。 いやきっとあんな風に穏やかで高貴ぶっている男の仮面の下は絶対、力で生きている人間を馬鹿にしているに決まっている。) 現に張飛の力で言うことを聞く手下も、実際裏で聞くと「筋肉馬鹿」と馬鹿にしている輩ばっかりである。そしてそう言うのは頭の良い奴ほど多いような気がする。 (玄徳という男、廬植とかなんとかいう偉い先生に勉強を教わったような輩だ。俺様の言うことなど、学もない輩と心の中で馬鹿にしているのであろう。) (馬鹿にされてたまるか。)
2008年07月02日(Wed)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−10−
「俺様はこの動乱を鎮めるために兵を挙げる。だから、俺様のために力を貸せ。人々を救うためだ。嫌とは言わせないぞ。」
それに対して玄徳は少し迷惑そうな顔をする。 (そりゃそうだ。正義のためと言うことと、髭男の家来になるのとは全く関係ない話だから。) 関羽は説得とも言えない張飛の高圧的な脅しをあきれながら聞いている。 しかし玄徳はまじめな顔をして言う。 「すまんっ。この馬ちょっとびっくりしているから、もう少し小さい声でお願いできないか。」 そう言いながら小刻みに手綱を動かしながら馬を落ち着かせようとしている。 器量が大きいのか、あるいは何も考えていないのか張飛の声の大きさや、力強さについても全く動じた様子はなく、その言葉も軽くあしらうようだった。 「貴様。漢が真剣に説いているのにその態度はなんだ。ぶっ殺すぞ。」 張飛は矛を玄徳に突きつける。 でも玄徳は何も言わずに馬を下りると、同じ目線に立ってから逆に問いかける。 「私に貴方の部下になれと言うことか。」 直線的に聞かれて、少し対面的な恥ずかしさを彼は持ったが、同時に話し合いというのは元々彼の性分に合わないらしく、面倒くさい説得をしなくて良いと言うの事が彼にとってはうれしくすぐに「そうだ。」と言い切る。 「だったら・・・・貴方に問う。私の主になりたいというのなら、将として今の時代何が必要と貴方なら思うのか。」 「貴様は、どうせ腐れ儒士のように、やれ礼節だの、政治力だの、知謀だといいたのだろ。」 (いつも頭の良い奴らはそんなことをいいやがる。) 張飛は説得だの、演説など、そう言うのが大嫌いというのは結局そう言う奴らが、学問を鼻にかけて張飛のような豪傑を巧みに言いくるめ馬鹿にしてくるのがどうしても嫌だった。 ああいう輩が口先だけで勝利して馬鹿にしたりするのが、そいつらが政治を取り仕切り、軍を率いて、その結果がどうなのか。 ちっとも民は豊かにならないし、犯罪は消えない。いくらそんな輩が知恵を誇ったところで、黄巾党に対してまるで歯が立っていないのである。 「それなのに、人のことを馬鹿にしやがって。」 テメエもそんな輩か。と完全に目が据わった様子で吐き捨てる。 どうやら感情の高ぶりで直前まで飲んでいた酒が回っているらしく、手に負えない状況になりつつあるらしい。 一方玄徳も同感な部分があるらしく、笑っていたがさっきのような無関心な愛想笑いから、少しだけ優しい笑顔に変わる。 (この男の言うように。理屈や理想だけを振り回して、他人の痛みを考えようとせずに、義務や強制だけを押しつける輩がこの世界を駄目にした。) と玄徳は思っている。だからこそ一族の有力者がせっかく出資してくれたのにもかかわらず、彼自身学問が好きになれなかったのである。 (ちなみに「だから、やる気はあったけれど、勉強をする気持ちになれなかったのは、そう言う腐った知識人達が居たからだ」と思いこんでいるが、実際はそんな輩を無視して知識を深めればいいのであって、単に遊び好きの自分自身の怠惰をちゃっかり人の所為にしていたりする。)
2008年06月29日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−9−
そんな玄徳から戻ってすぐに「会ってもいい」との旨が便りに来る。
しかも行き会うところはとある草原である。 人の多いところならもめ事になったら大変であったが、野生の虎のような張飛にとっては、そういう広々とした場所は暴れるのには最適な場所だ。 「傭兵を取り仕切る男としては、いかにも不用心な事だ」 関羽はそう思ったが、そうならこっちには都合が良いと言えた。 張飛ぐらいの腕前なら、関羽以外にかなう者が居るとは思えない。後は玄徳が張飛の迫力にびびって逃げ出してしまうことが一番心配であった。 「それなら俺の手下を草むらに潜ませて取り囲めばよい。」 張飛はそう言うが、相手の方が手勢は多くそう上手くいくとは思えない。 ところが玄徳は待ち合わせの場所へ部下達を連れてこず、わずかな供の者数名を連れてきただけであった。こっちが無理矢理にも従わせそうと思っていることを相手は露とも知らない様子である。 (何か策があるのか) 兵法に通じるだけに用心して関羽がつぶやくが張飛はそれを否定した。むしろ奴の姿を見て安心したようだった。 「あいつは、単なる腰抜けだ。勇気などない。」 張飛は玄徳を見て驚いたが、怖かったりびびった訳ではなく、以前会った人間だったからだ。 (あいつは、義勇軍の立て札を見てため息をついていた耳デカ男。 あんな奴でも傭兵の軍団長になれるのなら、俺ならいくらでも出世が出来るはず。あんな奴なら従わせるのは何でもないはず) そう思い得意の大声の口上でびびらせる。
2008年06月28日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−8−
証言1黄巾党の将校
「玄徳、彼は天下一の侠客だ。」 −侠客ですか? 「ああこの辺位置の不良少年だよ。 まあ、もう少年という歳ではないから不良青年と言うところか。 まあ中年でも少年隊とかいるだろう。」 −そんな人は知りません。 「とにかく良い奴だよ。あいつの悪口を言う奴はゆるさんよ。」 注※証言者の希望により音声を変えてあります。 証言2友人 注※有名人のため、目線で隠してあります。 「あいつは勉強もせずに馬とか衣装とかに凝っていて、とにかくいつも遊びまくっていやがって。うらやましいというか、もといっそんな事をしていて廬植門下として恥ずかしくないか。」 −頭が良いというか、軍略に優れている人格者というわけではないのですね。 「そんな分けないだろ。学校での成績もかなり悪かった方だよ。 悪知恵が働くように思われているが、本人は不良で好き勝手にやっているだけだよ。 それにあいつは無礼だろ。先輩に向かって器量が小さいとか、白い色がおれ様は好きなんだけど『自分の女の下着も白にしろ』とか女に言っているだろうとか、失礼なこと言いやがってあいつは白馬将軍と言われた俺様をちっとも尊敬しなんで」 −貴方は公孫讃?ですか。 「ああそうだよ、自分の女には下着は白にしろと言っているよ。純白を男は清楚の象徴と思うのは当然じゃないか。白こそ男の浪漫だろ。」 証言3部下 「玄徳様は尊敬できる上司だよ。普段は物静かだけど、色々丁寧に俺達の言い分も良く聞いてくれるし。怒ったり怒鳴ったりしなくて、結構色々自由に任せてくれるから、仕事はやりやすいよ。」 −武芸とかはどうですか。用心棒を取り仕切るには腕っ節が強くなければいけないし。 「武芸ですか?刃物見るだけでびびって居るし、意外に努力とか嫌いそうであんまり本人は得意ではないようですよ。 むしろ馬を乗るのが好きならしく、安い馬や癖馬をよく走らせて馬商人の手下からもそう言う面では一目置かれているようですが。」 (要するに、武勇に優れているわけではなければ、兵略に優れているわけでもないのか。) そんな事で傭兵達を束ねられるのか、関羽は心細く思う。 同時に張飛は腕に物を言わせて玄徳を従わせようとしているが、物静かであまり武芸には興味のない彼が、そんな張飛の呼び出しに応じるとはとても思えない。
2008年06月26日(Thu)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−7−
しかし本人は小突いたつもりでも、酔っぱらっている人間は加減という物を知らない。
ただでさえ力が強いことを本人は忘れている。 兵士はぐったりしたまま動かない。 「おい大丈夫か。」 (たださえ仲間が少ないのに自分で減らしてどうするんだよ) 関羽はとんでもない彼の言動に正直止める気にもならない。 「大体呼んできてどうするつもりなんだよ。どうせ、せっと」 「それは・・・・説得するのに決まっているだろ。」 そう言いながら張飛は指を鳴らしている。 (だから殴って言うことを聞かすのが説得というのかよ。) 「とりあえずだな。俺は正義のため黄巾党の奴らをぶっつぶすので、俺様の手下となってボロぞうきんのように働け。正義のための戦を拒むことは許されないぞ・・・・と兄貴、文を書いてくれ。頼む。」 (こう見えていいとこの坊ちゃんで字ぐらい習ったのだから、自分で書けよ。) 仕方なく関羽はその言葉を丁寧に・・・・でも自尊心が強いからどう見ても内容は張飛の言ったとおりの高圧的で押しつけがましい内容で、玄徳へ届けるように手下の一人に手渡した。手下は自分も殴られたら(って張飛自身は小突いたつもりである。)たまらないと思い、あわてて使いに走っていく。 「これで、俺の軍隊は完成だ。完璧な計画だぜ。」 そう言いながら、張飛は前祝いと言わんばかりに酒を飲んでいる。 前祝い。と良いながら単に酒が飲みたいだけなのである。 玄徳はあいにく別の馬を届けに行ってこちらへ戻ってくる途中であり数日後になるらしい。 そうとはいえ逆に言えばあと数日後に、その玄徳という者に代わり自分が部隊の長になれると根拠もなく思っている。とは、いえああいう酔っぱらいに脅されれば誰もがびびるし、関わるぐらいならすべてを投げ出して逃げてしまった方が賢明と言える。 「それに劉備の野郎が拒否ったら、殺せばいいし。ぎっゃははっ」 一方の関羽は張飛ほど無計画な男ではないので、とりあえず相手の玄徳を調べようとした。いざとなれば文にも通じる関羽自身が(張飛のような意味ではなく)義をもって説得して自分の手下にしてしまえばとも思ったのである。 その為には相手の情報はあったことにこしたことはない。
2008年06月24日(Tue)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−6−
「滅相もございません」
あわてて、否定したもののすでに涙目になっている。 「そうだろそうだろ。」 と単純な所為か自分に逆らわないことだけで満足そうな顔を張飛して関羽の顔をみて、得意げに「心配するな」と言わんばかりの表情をする。 視線がそれたのを良いことに、少しだけ安心したのか手下達は思わず小声で仲間内でつぶやく。 「ああ、同じ兵士として戦わさせられるのなら、劉備という男の方が良かったよ。」 「そうそう、俺が聞いた話だと張世平という馬商人が支援者で付いていて働けばたんまりと給料と食料をくれるらしい。」 「それだけでなく、張は良い馬や良い馬具、良い武器も提供してくれるらしい。」 「俺は、三食昼寝付きで都にも行けるらしいって聞いたぞ。」 「まじかよ。だったらこんな所、とっとと逃げ出して。」 と言っているのを、人間としての器官も野生動物のように発達している張飛に聞こえない訳がない。 「誰が、毛むくじゃらの酔っぱらいだと。」 (誰もそんなことは言っていない。) 心の中で関羽はツッ込みを入れたが始めて聞く名前がふと気になる。 「劉備・・・?なんだそりゃ、どんな食べ物だそりゃ。」 思わず殴ろうとする張飛に命の危機感を感じながら、あわてて手下は黙ろうとするが、 「煮てやろうか、切り刻んでやろうか。」 とそいつがにくいのか、手下達にお仕置きをしたいのか酩酊している感じなのでよく分からないのにあたりにかまわず殴ろうとするので手に負えない。 (ピンポーン。作者※注 このまま酔っぱらいにつきあうと物語が続かないので、張飛への説明の前段の部分は割愛させていただきます。) 「へー。そんな奴が500人以上の傭兵軍団を指揮していて、それを張世平ら幽州の有力商人達が支援しているというのか。 それで、俺様があれだけ説得しても、懇願しても手下が集まらないというのか。」 張飛は始めて理解できると、苦虫をつぶしたような難しい顔をする。 (殴ることを説得というのかお前は。) 関羽があきれている横で彼は更にない頭を振り絞り十分ほど考えていたが、急にすっきりした顔をしてつぶやく。 「そうだ。その劉備をここへ呼んでこい。」 「へっ」 突然ある兵士と顔があったが、命令したつもりなんだろうか。 「とっとと呼んで来いと貴様に言っているんだよ。」 そう言うとその兵士の頭を思い切り小突く。
2008年06月22日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−5−
「って、どこが話半分だよ」
どう見ても張飛が集めた人数は50人もおらず、とても軍隊といえる品物ではない。 しかも弱々しい物、張飛と同じように酒で頭がイッちゃっているもの、どう見てもちんぴらにしか見えない者などとても、兵士といえないような人間達である。 そんな彼らは薄汚い着物をまとっている姿で、武器だけはよく分からない刃物を持っていたり、木の棒を槍代わりに持っている人間などは居たが、鎧などの防具を持っている者は居なくて、遠くから見ると変な人間が集まっているようにしか見えない。 てんでばらばらな人間をなんとか集めてきたという感じであるが、共通しているところはみんな顔や頭や手足に殴られた痕があるという点である。 「こんなんで大丈夫か。」 思わ関羽はつぶやいたが、手下達は逆に顔を見合わせる。 「大丈夫に決まっているだろ兄者。なぁ?」 張飛はそんな空気を気がつくことなく、自信を持ってそう言いきって、手下達を見ると彼らも怯えた様子で「ああ。」と力なく賛同した。 (絶対、張飛の奴脅したな。) 手下達は張飛の目を見ようとしないだけでなく、関羽の方からも顔を背けている。 明らかに関わりたくない。迷惑に巻き込まれたくないというメッセージを目で送っている。 「大丈夫だよ。兄者。みんなこいつら自ら志願して俺達の仲間になりたいと来た連中だぜ。とりあえず今はこれだけだけど、これから何人も仲間になりたいって言う連中が来るだろうし、こいつらがそれぞれ30人ほど友人や、肉親、親戚など声をかけて仲間にしていけば、あっという間に万の手下が出来るぜ、きっと」 何を根拠にしているのか、張飛は自信満々だった。 (って計算あわねえだろ。この人数を30倍したって1万になんかならないだろ) そしてそんな自信が手下達には迷惑であった。 (自分はともかく、親族まで巻き込まれるのかよ) そんな恐怖で、思い切りどんびきしたり、げんなりしてしまう。 「えっ、なんかこの張飛様に文句があると言いたいのか。」 急に張飛は部下のそんな様子に気がついたのか。それとも単に威嚇したかったのか。木の枝を鞭の代わりに振り回しながら見回し、ドスをきかせる。 「まさか。黄巾党の野郎どもが帝をないがしろにして暴れ回ったり、お上に逆らって民達が苦しんでいる時期に、そんな窮状を救うために命をかけたくない不届きな奴など居ないだろうなぁ。」 (悪役だろ。どう考えてもその様子は)
2008年06月21日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−4−
(妥協さえすれば、わざわざ義勇軍になど参加する必要はない)
でも関羽は自尊心が強く妥協と言うことが出来ない男であった。 だからこそこういう不遇の境遇にいるし、それに耐えている。 「いやいや、兄貴。俺には分かっている。 俺も兄貴も、一軍の将として人の上に立つべき男だ。 だから俺達の軍隊を作って世に出るのだ。」 そう張飛は勇む。が、関羽にとって見れば張飛ごときに同格に扱われたことが内心不満だったりする。 (何にも考えなしのお前と私は同格ではない。) 大体にして、張飛という男はとてもまともな人間ではないと関羽は思っている。 常に今で言うアル中で酒を飲み酔っぱらっていて、その上暴力を所かまわずふるう。 しかもたちが悪いことに人並みはずれて腕力が強いからその被害は甚大である。 更に言うなら、この男は人を傷つけたり痛めつけたりすることが大好きな暴力愛好者であった。 本当は豪商の出ながら、彼が肉屋を営んでいるのは生活のためと言うよりも、鳥や豚などを殺して血を見るのが好きだからである。 「俺の手下だけでもかなり居るし、今日義勇軍の募集を見ていた連中に声をかけたら、喜んで俺達の軍に入りたいという奴らがたくさんいたんだ。 兄貴がとりあえず大将で、俺が副将で義勇軍に参加したい奴らを説得して率いれば絶対うまくいくはずだ」 そう言って張飛は得意げな様子で居たが「どうせ、説得なんかしてなくて脅したんだろう」と関羽は思っている。 (それでも悪い話ではないか。) どんな形であれ、俺の軍隊を持ちたい。そうすれば、役人連中なんかよりも軍略を納め武芸に優れる関羽なら、あんな連中よりもうまくやれると思っている。 「看板を見ていた、耳がでかい手長男はため息ばかりついていて役に立ちそうもなかったが、そういう輩とは別に本当に使える奴らを3000人以上集めたぜ。」 更に張飛はそんなことを言っているが、話半分に聞いたとしてもそれだけの人間が集め訓練をすれば張飛の言うとおり「俺達のための軍隊」が作れるかもしれない・・・・ 「・・・・って話半分って、どこがだよ」
2008年06月15日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−3−
「ついに俺達の出世の道が開けるぞ」
「・・・・」 「義勇軍の募集がついにあったぞ。」 (なんだ。) とても良い情報と喜んでいる張飛に対して、関羽は別に驚きもしない。 (義勇軍の募集など、他の県では結構出ているし。) 関羽自体はそれが出世につながるとは思っていない。 そんな感じで特に感銘した感じのない様子に張飛は拍子抜けする気分だった。 「なんだよ。戦に出れば兄者の兵学の知識や優れた腕前でいくらでも戦功が上げられるだろ。そうすれば俺達はいくらでも出世できるぞ。」 「本当にそう思うか。」 「俺にかなう力の持ち主など、そうはいないぞ。 兄者もそうだ。兄者のような青竜刀の使い手で、弓にも通じている男がどれほど居るだろうか。いや居るわけがない。」 自信を持って張飛は言い切る。 「兄貴だってそう思っているだろう。」 自尊心の強い関羽は心の中ではそれにうなずく。 でも、それが本当に関羽には出世になどつながるとは思えなかったのである。 確かに関羽・張飛の二名がいればいくらでも敵の首は取れるかもしれない。 だが多少の戦績をあげたところで、県の軍隊に組み入れられたとしても小さな小隊の隊長になれる程度の話である。 そんな下級役人になったところで黄巾党の圧倒的な人数に飲み込まれるだろうし、もしも諸侯が争うようなことになったとしたら、黄巾党ですら手が余り義勇軍を募集するような政府連中が一体何が出来るというのか。 そんな軍隊に組み入れられたところで、乱世の荒波に飲み込まれるだけであり、県令などの役人に良いように使われるだけである。 (そんな者になるためにこの力を無駄になど出来るか。 そんな小役人になど、俺の力を持ってすれば簡単になれる) でもそんな物が彼の望みなんかじゃない。 (俺はもっとやれる男だ。天下の一軍を率いて、英雄として名を残せる男だ。) そんな男が小役人に頭を下げてなどというのは彼の自尊心が許さないのである。
2008年06月11日(Wed)▲ページの先頭へ
明けない夜
やっと寝息が聞こえると「やれやれ」という
言葉の後で始めてため息をつくことが出来る。 あれだけ騒いだのが嘘のように天使のように微笑んで 寝ていると複雑な気持ちになる。 子供ならそれで許せるような気がするけれど それが自分の母親であることがどうしていいのか 静枝をわからなくさせている。 よく年寄りは段々子供に帰っていくと言うが 子供のように素直になっていくのなら 子供のように言う事を聞いてくれるなら どんなに楽だろう。 子供のように怒れればどれほどいいのだろう。 中身は子供に返っていくのに ・・・・だから、多少のわがままは許してあげないと と、娘はいっちょ前に私を諭すが、 母親は昔呉服屋の娘であっただの 年をとって何も出来なくなっているのに プライドの高さだけは、若い頃そのままであった。 朝から今日もこっちの気が変になりそうな一日だった。 やれ現金が無くなっただの、私が母の悪口を言っているだの そんなことばかり言い、黙って出ていっては よその家にまで迷惑を掛けて謝りに行った。 さらに時間間隔をなくしたらしく、夜遅くなって医者にいきたいだの そんなことばかり言って、最後は喧嘩になってしまう。 脳の病気だから仕方ない そうお医者に言われて分かっているが 起こっても慰めても、無駄と分かっていても しなければ何時までもきりがない徒労 結局今日も2時間ばかりそんなことをやっていた。 ちっとも眠る時間になっても眠れなかった。 「こうしておいても仕方ないから寝ないと」 明日は夫の休みで、こないだ母が迷惑を掛けた医者に 謝りに行かなければならない こういう事情があっても、世間はそう言うことが分かってくれない 何かあれば「自分の母親でしょ」「愛情をかけないからそうなるのよ」 という人がいるし、気の利いた人でさえ「そう長く苦労することでは ないから我慢しなさい」と気安く言うのだ。 「夜が明けなければいいのに。」 例え明日になっても同じ苦しみが続く。そんなことをもう何年も繰り返した。 しかも頑張ってもこういう病気は頑張った分だけ状況が良くなることはない 限りなく100に近いパーセントで段々悪くなっていくのである。 (それに対しても努力が足りないからと周りは言うし。) 若いうちなら耐えられる。でももう何年もそんな状況が続く。 母親の面倒をほぼ毎日見なければならないために、外出もままならないし 旅行なんかも行ったことはない。 子供の面倒を見てから今度は自分の母親の面倒に自分の人生を費やされて・・・・ 母の付けていたテレビから同様の歌が流れると思わず口ずさむ 高校の時合唱をやっていて音楽を続けたかった。 いつかプロではなくても同級生達と合唱をやっていきたいねと 良く集まったとき話していた。 でも家庭がそんな状況ではとてもそんなことをやっている暇も余裕もないし 第一同級生達とも会う機会さえなくなっている。 いつまでそんな暗い闇が続くのだろう。 何のために私は生きているのか、生きていたのか そう言う考え方が一番不味いことが分かっているのに ドラマであればそこから歯車が狂い始めるのに 問いかける自分がいる 「合唱なんかなくたって生きていける。」 だからそんなのなんか甘えだと口に出せば言われることは明らかである。 でもそれが中学生の時の唯一の希望であり光だった。 けしてそんな小さな光なら本当は贅沢な願いではないはずだ ミュージシャンとして仕事をしなくてぷー太郎で行きたいのとは訳が違うから。 それさえも母がいるかぎり許される状況ではなかったし 世間と呼ばれる人達は「生きている限り面倒を見るのは当然」 とさも道徳ぶったヒューマリズムを振りかざし、それを受けなければいけない人達を サディスティックにいたぶって喜ぶだけなのだ。 人は平気で「光が無くてもモグラは生きているから生きられると平然」という物なんだろう。でももしこの地球に夜が来てそれから永遠に夜が続いても生きていけると思っているのだろうか。 それは必ず夜が永遠に続くはずはないから・・・・と思っているから、そういう心の奧には前提があるから、たとえ話にしからならない。と思う。 「永遠に夜が続く事がないように貴方の苦労が永遠に続くことがないから。」 そう言って励ます人がいる。 では、その苦労の終わりは一体何なの? 問いかけても答えは一つしかない。 それを望んでいる自分がいたらきっとその心は闇である。 例えその日が来ても、実の母親に対してそう思わないといけない自分自身の心は あまりにも深い闇につつまれ。後ろめたく輝くことは出来そうもない。 あとどれぐらい続くのだろうか。 年をとり長年の疲れで段々無理が利かなくなっていく。 夫も私と母に気を配り酷く怒りっぽくなったり、うつっぽくなりつつある。 こんな状態でいつまで持つのだろうか。 この夜が終わったところで明るい日が来るとはとても思えない。 いつか例え夜が明けても、私にはきっと闇が開けることがない。 母の心が夜になったように、わたしのこころが闇になったように 光が必ず差し込まないことをしる日が 必ず心には明けない夜がいつか訪れる。 「人生なんてそんな物よ。 望む望まないに関係なく それがその人の運命だから仕方ないでしょ。 受け入れなければ仕方ないでしょ」 と悟りきったように、私に言った人にも 等しく。
2008年06月09日(Mon)▲ページの先頭へ
真三国志・関羽編2
「おうおうおうおうっ兄者〜っ」
そう言っている間にそいつはやってきた。 顔を真っ赤にさせながら、ひげ面の男がドタドタ床が抜けるのが心配になるほど大きな足音でやってくる。 「おいっ、張飛何しにやって来たんだ。」 「おっ、青少年諸君勉強まじめにやっとるか」 そう言いながら完璧に関羽を無視して意味もなく勉強に来た子供を小突く。 「だから、授業の最中は来るなって、言っているだろ。子供怖がるし、逃げるし。ただでさえ生徒が少ないのに、邪魔をすんな」 「おっ輪語を習っているのか。そんな物ぐらいわからんのか馬鹿者が。」 酒臭い息を大量に吹きながら酔っぱらっているらしく人の言うことなど聞いていない。 (お前もどうせ分ってないだろ。いい歳して。) 邪魔者が来ると仕方なく授業を終了させざる負えない。 (酔っぱらいが暴れて子供達にけがをさせたら、怒られるだろうし。) あわてて子供達を帰す。 「本当にすまんな。」 (本当はそんなこと思っていないくせに) ニコニコしながら、酒臭い上機嫌な顔を関羽に向ける。
2008年06月08日(Sun)▲ページの先頭へ
真三国志の世界+告知
真三国志・先週最初の「玄徳編」が終わり、土曜日から「関羽編」の連載が開始されました。
当初、関羽編から公開の予定でしたが、時代背景を伝えようと急遽、玄徳編のプロットを起こした次第です。 一番問題だったのは、玄徳の英雄像でした。 三国志演技に書かれているような、去勢された聖人君主とか、あるいは単なるお人好しのマゾヒスト的な人間像は取るつもりもありませんでした。 確かに人間的にはすばらしいかもしれませんが、どうしても英雄達が命をかけてと言う人物像にはとても思えないし・・・・ むしろ、蒼天航路(講談社)の姿が実像に近く、今で言うやくざ者というのが三国志研究者の中では定説であり、放浪する玄徳というのは、たかりに歩くやくざそのものだったのかもしれません。 一方で、蒼天航路の玄徳の性格というとちょっと違うかなという部分もありました。 正史には穏やかで物静かでありという事が書かれており、やはりただのやくざ者にない風格があったと思います。 その辺をねじ曲げるのは彼の実像を描くにはおかしかったし、その後の行動的に見えても、朝廷に入ってもそれなりの風格がある人物であったことはかなり確かなことと思います。 あと玄徳の能力的な者ですが、評論家の書く者を確認する限り玄徳という男は凡庸であり、他の曹操と孫権に比べて著しく劣るという評価が定説になりつつありますが、私はそれは少し違うと思います。 後々物語が進むにつれて描かれることになるのですが、劉備が諸葛亮に会うまでは彼自身の才覚によるところが現実的には大きいですし、この物語の劉備の最大のクライマックスである漢中攻防では曹操との戦いに法正とともに戦い抜き打ち破ったのは彼の戦闘的才能であるわけです。 また適正な評価を描きたいという一方で、彼にはリーダーとしての予想という者を描きたいと思います。 彼は三国志演義では誰からもすかれる聖人であったように描かれておりますが、彼は文官からは不人気であった実情が見えてきます。それどころか玄徳の配下で政治が出来る者は諸葛亮ただ一人しか引き寄せられなかったという印象があります。 こういう閉塞した時代で、リーダーシップという者、あるいは人望という言葉が私語になる時代だけに、ビジネスに描かれるリーダーシップや、今社会に必要とされるリーダーシップとは違った者を玄徳という人間の実像をふまえながら、脚色ではなくエゴではなく描かれると思います。 ◇◇ 描く上で、構成の甘い点、文章の甘い点誤字脱字など多数ある状態で皆様にご迷惑をかけております。 真三国志や月姫抄については、その点をふまえ読みやすさを考え、ダウンロードで本として読める形のもの、つまりPDF版の公開を予定しております。 そちらも是非お待ちいただければと思います。
2008年06月07日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志「関羽・酔っぱらいに閉口する」−1−
背の高い眼光鋭き男が、不釣り合いなほどのどかな農道を歩いていく。
髭は伸び放題のび、髪の毛も大きく伸びている。顔はかなり日に焼けたせいか、あるいはアレルギー体質なのか、酒を飲んだように真っ赤にしている。 だが衣服はしっかりとした者をまとい、その辺が唯一人間らしいと言えば人間らしいが、その他はあまりまともとは言えない。異相の男と言えた。 本人はあまりそうとは思っていないが、体格が人並みはずれて大きい所為かとても偉そうに見える男である。 「これはこれは。」 と頭を下げる農夫もたびたび居る。そんな彼らは腰を低くして挨拶はするが、恋にすぐに目を離して、なるべく関わりたくない様子である。 「本当にあんな訳のわからない男に、子供の勉強を教えてもらって大丈夫か。」 少し不満そうに彼が去った後、ある農夫は自分の妻に小言を漏らす。 「でも、領主様によると何でもこの辺一体で一番、孔子・老子・孫子とか何やら学問に詳しいらしいよ。 また弓の名手でもあり、力持ちで青竜刀を振り回すらしいの。 我が子に出世をしてもらうには文武に優れてもらわないとやっぱりね。」 妻はそう答えるが、決まってこの農夫は怪訝そうな顔をする。 「本当にそうなら、なんでこんな田舎で寺子屋の先生をして居るんだ。」 その質問には彼・・・・関羽自身の方が聞きたいところが本当であろう。 だからこそ、農夫達が怪訝な顔をすることも不本意ではあるが理解が出来る。 (俺だって、こんなところでガキ相手に学校の先生などしたくねぇつうの。) 思えば領主の口利きでこの村の有力者に世話になることになり、初めてここへ来てからずっと迷惑そうな顔を領民達はして「よそ者」と突き放してきた。 「あっこれはこれは関羽どの、今日も先生よろしくお願いします。」 と、村長も丁寧に応対し頭を下げるが、どう見ても面倒はいやだと言わんばかりに避けている様子が明らかにわかる。 (きっと、領主は手が余るからこの村長に自分の面倒を押しつけたのだろう。) 邪魔者にされているのは関羽自身わかっている。だからといって嫌われているから自分が出て行くという健勝な考えは一欠片もない。 むしろ、 (お前らと、俺とは違うんだよ。) と思うとこの男は優越感に浸ってさえ居たのである。 とは言え、この境遇にこの男は満足しているわけではない。 「こらっ、人の髭を引っ張って遊ぶな。」 「こんな問題もわからなくて、テメエは張飛かっ。」 そう言って、細かく無骨に見える彼だが意外にわかりやすく、子供達に勉強を教えなかなか目下の人間に対しては(ちょっと押しつけがましい感じもするが)面倒見のいい男で、意外と子供の先生にはあっている。 とはいえ、ガキの面倒を見たり、片田舎で村長の家に居候するためにわざわざ、北の地からやってきたわけでもなければ、頑張って学問を修めた訳でもない。 (それなのに、ガキの面倒ばかり見させられて。) しかも今は、ガキよりももっと手のかかる面倒を押しつけられているような気がする。
2008年06月04日(Wed)▲ページの先頭へ
真三國志-20-
でも逆に言えば突拍子もないことを言って話題をそらしたのは、玄徳自身反論を出来なかった事に他なかった。もし本当に自分の軍が強いと思えばあくまでそう主張すればそれで良いのだが、それが出来なかった。
(これからの軍だから、鍛えれば強くなる。と本当は言うべきであろうが、それが出来なかった。) 「所詮、一族に金を出してもらって洛陽に行ったのに、遊び続けて結局廬植先生の下でしっかり兵学など学ばなかった報いだ。 用兵などの専門的知識を勉強しなかったお前が、兵を強くして一軍を率いると言うことが出来るはずがない。俺様と違って所詮傭兵の大将が限界なんだよ。お前は。」 公孫賛はそう言って玄徳を笑って、去っていった。 (確かにそうなのだ。) 玄徳は廬植の許で学んだが最後まで用兵を理解しきれなかった。その所為で勉強する気も失せて、最後まで勉強しなかった。 (彼らをどうしようか) 彼らをつかってどう功名をたてようか。と言うことよりも、彼らの命を無手谷してはならないという思いが、玄徳を気重にする。 数は集まった。だが統率の取れた軍にするには寄せ集めの軍団であるからこそ並の困難ではない。それに相手は黄巾党人数が違う上、統率する者にも知勇に優れた者はたくさんいる。そんな者が襲いかかれば何とかまとめている状態の玄徳など、あっという間に蹴散らされてしまう。 (蹴散らされないだけの芯がない上。追い払う力強さが、寄せ集めの我らにはない。) 街にはいよいよ「黄巾党を討つ者を求める義勇軍の募集」の立て札が立てられたが、このまま玄徳の部隊が乗り込んだとしても、部下達を無駄死にさせるだけである。 (そうすると、このまま我慢して用心棒をしながら力を蓄えなければなるまい) そしてそれをいつまで続ければ、打開策が見つかるのか・・・・ただでさえ公孫賛に比べ後れを取っているのに何年かかるともわからない現実に思わずため息が出る。 「いい若者が、義勇軍の立て札を見て、何年寄り臭くため息をついているんだ。」 そう言う声と同時に、とてつもない力で玄徳は背中を思い切りたたかれ、息が詰まる。思わず涙が出そうになる。 (なんだなんだ。) 「おうおうっ、皆まで言うな。俺様に付いていけば大丈夫だ。出世させてやるぞ。」 ぐはははははっ という言葉とともにあたりに酒臭い香りが立ちこもる。 「おう。俺と一緒に天下を取ろう。」 「テメエは俺軍に入って出世をしようぜ。いやだとは当然言わないだろうな。」 そんなことを言って丸顔を真っ赤にした酒飲みの危なそうな男が豪快な笑い声と一緒に有無を言わさず周囲の者達の首根っこをつかんでは、酒臭い息をまき散らしながら、上機嫌に恫喝しながら歩いていく。 (まるで、嵐のような男だな。) そう言いながら玄徳は背中をさすり、ふとある考えが頭をよぎる。 そして、先ほどの憂鬱が嘘のように満ち足りた笑顔を浮かべる、みんなが迷惑そうに見ているその男を親のように温かい目で見送った。 (第一話玄徳の章「不良青年玄徳の憂鬱」−終劇−) 次回、第二話関羽・張飛の章に続く・・・・
2008年06月03日(Tue)▲ページの先頭へ
真三国志−19−
そう言いかけて、公孫賛は考え込み言葉を飲み込もうか迷う。
でも意を決して玄徳へ言う 「用心棒とは言え、一軍の将になったのはめでたいことだが、こんな役に立たないならず者だけ集めてどうする気だ。お前一人でどうにか出来ると思っているのか?」 「何っ。」 部下の一人が怒り襲いかかろうとするが、公孫賛がにらみつけると動けなくなる。 「俺は、お前を買っている。お前なら、俺様の副将ぐらいならなれる才能がある。 最低でも、こんな奴らと一緒にやって居るぐらいなら生きてなどいけないぞ。」 そう言うと公孫賛は自分の部下になれと高圧的に言い放つ。その態度に周りがざわめく。が、北方の異民族から恐れられるだけの男であるだけあって納得してしまう部分が周囲にあった。 玄徳も、その言葉の勢いに屈するように思わず顔を伏せて考えた。 だが、意を決して意外な言葉を投げかける。 「そう言うお前こそどうなんだ。」 「どうなんだ・・・・って?」 いきなり逆質問をされ、完全にとまどうし、その意味がわからない。 どうだと言われたって、玄徳と違い公孫賛は順調に出世し、名声を上げている。その為精力的で年は増え中年になりつつあるが、日々充実しているせいか却って昔より活力がある。どうして玄徳に心配されなければいけないのか、そっちがわからない。 「それが心配なんだよ。」 玄徳は言い切る。 うまくいっている間は、多少疲れていてもテンションがあがっているから問題がないのだが、歯車が一端狂ったとき、急激に名声を上げてきた以上逆に崩れるときは一気に来る。 (まして、公孫賛は人にすかれるタイプではない。強いからこそ傲慢であり、一つ躓いたとき、良いときは笑ってくれる人たちも一気に敵対化することになる。そうなれば成り上がり者だけに滅びるのは早い。) 「そうなったら、俺が助けてやる。遠慮なしに言えばいい。」 「ばかな。」 公孫賛は笑って見たが、その馬鹿さが玄徳の良いところだと言えないことはないと公孫賛は思う。 自分が立場的に下であっても公孫賛の言うことを黙って聞いていたら、部下達は良い気持ちがしないだろう。だからこそ、玄徳は敢えて勝ち気なことを言って部下達に恥をかかせないように気を配ったのだ。
2008年06月02日(Mon)▲ページの先頭へ
真三國志-18-
「廬植の門下の人間はみんな元気だったぞ。官渡に行く前にお前が来てくれたら、みんなに話をしてあげれたのに残念だったなぁ。」
そういうと玄徳はたくさんの門下生の仲間をあげる。 「○○は克州で県令をやっていたり、△△は逆に黄巾党でブイブイ言わせて居るみたいだぞ。あと・・は今は山賊で、・・は商人の・・に援助を受けながら、兵学を教えて、その門下がどこどこで・・・・」 たくさんの名前が話を出てきては本当にうれしそうに話をして、尽きない。 公孫賛は意外な感じがした。 玄徳は廬植の門下では落ちこぼれというか、あまり勉強をしに来ることはなく遊びまくっていたが、しっかりと勉強をした公孫賛よりもその者達と接する機会が短いにもかかわらず、仲には玄徳を馬鹿にしていた者も多かったが、そんな彼らと玄徳は仲が良い。というか、その彼らの方から玄徳に官渡に向かう際は会いに来たと言うことらしい。 (妙に人望がある男だと思ったが、昔よりもなんかこの男は人気があるというか。) (それ以上に、少し若い時期が過ぎると昔の人間が懐かしいのだろう。) 「で、その道中に○○の友人の・・…と言う奴が黄巾党にいて・・・・」 「・・・・という男が・・…と言うところに居て、そいつが・・・・」 それから永遠と玄徳の官途へ向かう先々の男の名前が次々と出る。彼らと話した面白い話や、英雄達の噂、官軍・黄巾党の動静など、聞いた話を時におもしろおかしく脚色を付けながらとても楽しそうに、とても幸せそうに公孫賛に聞かせる。 (別に馬を届けたことがたいした効名や出世につながるわけではないのに、長々と自慢をいいやがって) 「何を笑っているのだ。」 ふとそんな思い出話が楽しく珍しくしゃべり続けた玄徳は、苦笑いする公孫賛の表情に気がつき、ふと興味深そうに聞いてくる。 「相変わらずだな。やっぱり。」 玄徳は普段物静かな感じだが、人と話すのが好きである。というか人間と接するのが好きなのである。 「それを張商人は勘違いして、緻密に玄徳は情報収集して、人を操り大事をなしたから。と今回の官渡への輸送を高く評価しているようだが、この男には本当はそんな気はないのに、勝手に勘違いして大人物と思っていて笑えるよな。」 公孫賛はつぶやく。 本当にこの男は、人間と接するのが好きであり、情報を聞き出したのはこの男の性格からしてたまたまなのである。たまたま話をしていたら、たまたま懐かしかったり、そういう穏やかな性格だからこそ、相手が善意で教えてくれただけである。 玄徳の方から人が思うような深く意図があったり、聞き出そうと必死になっているわけではなく、今回の成功も彼の努力とか才能と言うよりも、積極的に人好きの玄徳が人とたくさん楽しんであっていたら、その人間の数だけ情報と協力者が彼の意図とは別に出来て、結果が自然に味方したのだと玄徳とのつきあいが古いからこそ公孫賛にはわかっていた。 「でもその結果で人間が集まった。それで、どうするつもりなんだ?玄徳。」
2008年05月28日(Wed)▲ページの先頭へ
真三国志−17−
そんな玄徳の許に白ずくめの男がやってきた。
白馬に乗ってやってきて、鎧も白。中に着ている衣も白。 そして苦労をしているのか顎や、髪の毛にも白い物が混ざり、顔だけが軍人らしく日焼けをして黒かった。 白ずくめの姿はかっこよかったが、玄徳様よりも8つぐらいは上だろうか。 その年で、貴公子ぶって白を好むのは似合うかどうかは判断に迷うこと。 彼は絹の手ぬぐいで顔をぬぐうと、とても尊大で偉ぶった様子で彼を呼んでくるように言いつける。 (白フェチかお前は。こういう奴は自分の女の下着にも白を着ろとか訳のわからないことを言うんだよな、きっと。) やがて玄徳が呼ばれて下りてくると、彼の顔を見るととてもうれしそうな顔をし彼のその白髪交じりのひげを引っ張る。 「おうおうっ、公孫賛じゃんか。あい変わらず女に白いドレスをプレゼントしてドン引きされているか。」 「劉備っ、北方守護神として、トキメク兄弟子様に向かってなんて言う口の利き方すんだよ。」 (やっぱり女に白い衣装強要しているんじゃねぇかよ・・・・しかもときめいているし) ・・・・って公孫賛といえば官軍の北方辺境の守護部隊の中心的将軍で、その働きはかなり有名である。彼の率いる白馬軍は白い馬だけを選抜し、白ずくめの衣装を着ており、かなり目立つ存在である。 その大将公孫賛は武勇に優れ勇猛果敢で北のきょうどと呼ばれる何度も中国を侵略した部族からも恐れられており、その白馬の軍を見ただけでも逃げるほどと言われている。また、廬植の門下として軍略にも優れているとも言われているほどの男である。 「なるほど、玄徳様が廬植の門下生だから、わざわざ玄徳様が傭兵の大将になられたことにお祝いに来たんですね。」 そう考えれば、超有名な公孫賛将軍がここに来る理由もわかるような気がする。 「ってそんなんじゃなく、単に張商店に白馬を注文しに来たら、玄徳が居るという話を聞いたので、廬植門下一の落ちこぼれがどうしているかと来たんだが・・」
2008年05月25日(Sun)▲ページの先頭へ
真三国志−16−
張がそんなことを考えている間にも、状況は先に進もうとしていた。
馬頭の部下達は用もないのに玄徳と仕事の後飲みに行ったり、用事がないときは彼の許に集まったりしていた。 また玄徳が馬を無事とどけたという報を聞きつけて商人達も顔を出し、援助を申し出る者も居たし、また仕事のない若者達も食い扶持にありつけるだろうと訪ねてくる者達が多くいた。 特に一兵も失わず成し遂げたと言うことで、義勇軍はちょっとという者達も集まってきたし、貧乏で金をけちっている官軍よりは良い待遇で雇用してくれるかもしれないと淡い期待を持って腕に自信がある者達も集まり始めてきた。 「確かに逃げ回っていただけかもしれませんが、あの情報力は雇えば絶対に役に立ちますから、なにとぞ今までどおりに。」 と散々辛口なことを言う馬頭も感情は隠した言い方であったが、それでも強固に玄徳を解雇しないようにと念を押した。 (ある意味まずいことだが) 雇い主の張よりも従業員達は玄徳を慕っている。この状況で張が玄徳を切り捨てるのなら、張自体の商いも成立できなくなりそうである。 (なにより恐ろしきはその気さくな人望か。) この自体に張も玄徳のために動かざる負えなかった。 またそれ以上に玄徳の為だけではなく、玄徳の許に集まった者達を使い北方の良質な馬を中原に大規模な販路を広げるチャンスでもある。 玄徳が出立するときと同じように、張は同業者に共同で出資することを説いて回った。また同時に馬商人達だけではなく他の商人達にも声をかけた。 そして玄徳を代表者とする用心棒というか傭兵を生業として物流を取り扱う・・・・現代で言うならば物流会社と警備会社を一緒になった会社が出来た。 それにより領土も役職もない玄徳が、人をそろえ養い、軍装を整え、小さいながらも自らの軍を手に入れたのである。
2008年05月24日(Sat)▲ページの先頭へ
真三国志−15−
依頼をやり遂げて玄徳の評価は上がった。
それでも玄徳はそのことを自慢することなく、張や馬頭にも同じように深々と挨拶をして丁寧な応対をする。 本当に彼は偉ぶるところはなく変わることはなかったのである。 (武をひけらかして、力があるから怯えさせれば何でも手にはいると思っているやつが居る。風を切り武勇を自慢する輩が居る。) (そんな輩は、そんな姿を人々がどんなに疎ましく、迷惑かわかっていない。) (人がどう思っているのかわからずに威張り続けるような輩が、人の気持ちを理解して政など出来るのだろうか。民に対して優しくなんか出来るのだろうか。) (人の心をわからない人間が、人を率いる英雄になれると思うのか。) 張は馬商人として英雄達とも交わりも深く愛想も良かったが、心の中で得張っているそう言う英雄を自負する輩を軽蔑していた。 (何の生産性もなく力で地位や財をため込み喜んでいる輩のなんと醜いことか。) そしてそんな役にも立たない男達に罪のない馬達を売り払う自分自身。戦場に送られた馬は走らされるだけ走らされて、槍を受け、弓をその身に受けて、死んで、野ざらしにされ、腐っていく。 そして勝った物達は英雄を気取り、おごり人々を従わせ、自らの虚飾を彩るために人々に苦役を押しつける。そして新たなる勝利はそんな豚どもを太らせていく。 (そんな彼らを軽蔑する死角が私にあるのだろうか) 張の得た財はそんな犠牲に成り立った物。戦いで得た金は彼の衣服を替え、食べ物を買え、人を従わせる。 (でも、そんな物が本当に私がほしかった物なのか。 本当にそんな物が、自分が生きるために真に必要な物なのか?) そしてそんな犠牲を払って手に入れた栄華がどこまで続くのか。 自分たちの部下や商いの仲間は常に張に取って代わりたいと思っている。 飢えた民や不満の持つ若者達は妬み、自分たちの不幸の原因は張にあるとして行き場のない怒りをぶつけるかもしれない。自分が踏みつけ見下した人たちはそんな奴らに喝采を与えるだろう。 取り入った権力者達も今は仲間でいい顔をしていても、いつ気が変わり権力と武力で蓄えた財を奪うかもしれない。 黄巾党のような輩がここで大きく力を持ったのなら、軍資金の確保と見せしめのために自分たちを殺そうとするかもしれない。 (俺達はまじめに働き、努力によって商いを成功して、身を削り知恵を絞り、寝る間を惜しみ、やっとここまでにしたのに、何が悪いというのだ。 それなのにそんな努力ごと天は飲み込もうとする) もしも玄徳のような人のことを思いやる、部下を慈しむことが出来る若者が、おごらずに謙虚に、一生懸命生きる若者が天下を取るのなら、こんなくだらない世の中も、くだらない薄っぺらい英雄気取りの馬鹿どもが横行する世界よりも遙かにましかもしれない。 そして真に必要でなく無駄に使うお金があるのなら、彼の力にくだらない金を使うことが出来れば、まだましかもしれない。金のために戦場で物のように壊され捨てられた馬達の供養になるかもしれない。 勿論玄徳が・・・・片田舎の用心棒の彼が天下を取れるとは張自身は思っていない。多分玄徳を援助したところで無駄にしかならない筈である。 とはいえ、お金があったところでどうせ余計なことに消えていくお金である。 確信のない物にお金を使うことは商人としての張の美学には反する事だ (それでも、玄徳を支援してみよう。) と思ったのはそんな結果を求める以上に、玄徳のような部下を思いやり、謙虚に精一杯それなりにがんばっている若者を援助することが勝ちがあると思えたし、そんな彼が軍資金の援助という翼を得たときどんな可能性を見せるのか好奇心を持ったのである。
2008年05月23日(Fri)▲ページの先頭へ
新三国志14
このまま敵にはあわないで帰還できるだろう。
そんな油断が芽生えるほど順調に行程を進み、何もないまま玄徳一行は数ヶ月の輸送を達成させてしまう。 「何もなかったのか。」 張世平は馬頭の報告に驚き、体を付け抜けるような、叫び声を上げたくなるような衝撃を持った。 「ええ私の部下が色々、数万の敵陣を突き抜けたりとか、我らの武名驚き自ら逃げ出したとか、襲いかかった100万の敵を逆に皆殺しになったとか、大安売りで魚屋に並んだ最強おばちゃん軍団に化粧ケバイぞと罵ったとか・・・・とか自分のやったことを過大広告しているやつも居ますが、何もなかったんですよ。本当に。 むしろ黄巾党の連中から逃げ回っていただけなんですよ。」 そう言って彼は笑顔を見せる。・・・・それまで黄巾党がいつ襲ってくるのかと常にびくびくしていた人間が、修羅場をくぐったはずなのに、すっかり警戒感を失っている。 そしてそれが張には驚いた。 イナゴの大発生のように黄巾党の賊が満ちているのである。逃げ切ると簡単に言ってはいるがそんな簡単な者ではない。それだけのネットワーク、敵である者からも慕われる人望、なによりただ名声を上げるのなら部下達が言うとおり敢えて彼らを危険な目に遭わせてそれを救う形で武勇を見せつければいい。 (こっちの希望を見抜いてあえてそんな蛮勇をしなかった) そんな名声のために、自分たちの部下を巻き込まれるのは困るし、そんなに危ないのなら張自体が同行したいと思わない。 しかし何事もないのなら、張自身が中原に向かい商売をすることが出来るようになり、より物流を活発にするようになる。 そうなれば玄徳自体の仕事も増えていくことになる。 また何事もなく安全な職場となれば、玄徳の部下として食い扶持を求める人材が集まるようになる。 (軍事的才能には疑問が残るが) むしろ百万の敵を皆殺しにする以上に今回玄徳のやったことは意義があり、同時に蛮勇に頼ることなく、たくさんの情報を集める緻密さ、ミスのない形でやり遂げる意志、 それでなおネットワークを強化する見通しの深さ。 (腕に覚えのあるという豪傑はこの地にはたくさんいる。) (でもそんな風に、相手の気持ちを読み、相手を引きつけ、緻密に行動することを第一とするそんな者が、彼以外に居るのだろうか)
2008年05月21日(Wed)▲ページの先頭へ
新三国志13
玄徳のそんな檄に、何かを振り切るように男は何も言わない。
それでも玄徳には何も言わない代わりに去り際、馬頭の男につける。 「このまま行けば黄巾党の部隊が居る迂回した方が良い。」 思わず聞き返そうとなるが、それ以上何も言おうとせず足早に去っていく。 それは軍事秘密で口に出すこともはばかれること。それどころか、あの男にとって本当は玄徳にあうことでさえ本当ははばかれるのかもしれない。 (それでも来たのは、あの玄徳の器に惹かれているから) 翌日あの男の言葉に従い道順を変える。 「あんな男の言うことを信じるのか」 と玄徳の手下でさえそんな言葉があがったが、玄徳は彼の言葉を信じた・・・・いや信じようとした。 そしてそんなことはこの一度や二度だけではなかった。 行く先々で黄巾党の者や町の不良達が玄徳を訪ねてきては話をし情報交換をしていく、その事で玄徳は進路を変え何事もなく行程を消化していく。 行程は紆余曲折はあり思いの外かかった。 しかし、時間をかけながらもあれだけ賊が横行し無事にいけるわけがないと思われた困難を極めた行程を玄徳の一団は黄河を一頭の馬も奪われることなく、玄徳の手下の用心棒や、馬商人の使用人達の誰一人をかけることなく、全員が黄河の川を見つめることが出来た。 その時無事であったからこそ、本来なら当然襲いかかるべき悲劇の一つ一つを回避してきたことを思うと・・・・・・その一つ一つがもし一つでもよけれないときがあったときがあったのなら自分たちは海の藻屑のように、巨大な黄巾党に飲み込まれていたのだと振り返ると、ものすごい恐怖が襲いかかってきた。 その行程を今度は引き返さないといけない。 そう思うと同じ道をたどるだけでもものすごい大変なことと改めて思う。 しかしそれだからと言って一行は心配する気持ちはもうほとんどなかった。 行程を進む、あらかじめ声をかけた玄徳の不良仲間やその不良仲間の仲間に声をかける。そこから黄巾党の最新の動きを聞き出す、それを持って行程の最終決定をする。 その繰り返しをすればいいと誰もが自然と思っている。 馬頭は密かに行く先々の町に到着するのが楽しみになっていた。その度に自分たちの町では邪魔に思ったり、怯えたり、暴力的であった者達が、玄徳の前ではそう言う面を見せずに、口は悪かったり粗暴な仕草は見せるもののごく平凡な若者にすぎなかったのである。 そんな彼らに「黄巾党の乱が終わり軍に勤めるのなら、この馬頭様に馬の乗り方を少しでも教わって悪い部分はなおした方が良い。将来戦いも騎馬の戦いや組織的に兵を動かすことが出世の道になる時代が必ずくるから。」と言って「北方の馬商人の技術は都の輩に比べてとても優れており、天下一だ。」と自分を尊敬を持って紹介してくれる。 その事で不良達が彼に尊敬し、それでだけでなく「先生」と慕って、名物の○○団子とか持ってきたりして集まってきた。 自分たちの地元では単なる雇われ者として何ともない存在の彼にとってみれば身に余ることであった。 そんな若者達に馬術を教えるのは時に不器用であったり、時に若いだけあり飲み込みが早い者達が居たりして千差万別であるが、ほとんどの者が馬を乗る事を楽しいと思ってくれることが何より楽しみになって行った。
2008年05月18日(Sun)▲ページの先頭へ
新三国志12
「そんなに不満があるのなら敵の首領である張角に訴え出ればいいだろう。お前以外にも不満を持っているやつが居るだろうし」
「いや張角様は体の調子が良くないらしい。今は官軍を圧倒しているがこんな状態なら、俺たちは滅ぼされるかもしれない。」 「青州軍に志願したらどうだ。あいつらが一番強いんだろ」 「青州軍は今は東に展開していて、こっちには居ないんだ。」 「だったら、劉壁軍はどうなんだ。それから、楊奉とかああいう山賊に逃げ込むとか。」 そう言って玄徳は親身になり男にアドバイスをしているようであるが・・・・ (そう見せかけ、巧みに敵の陣容を聞き出している。) 「なあ、玄徳・・・・いや玄徳様。俺はあんたの部下ならよかったよ。」 そんなことも考えない黄巾党の男は、親身になってくれる玄徳の事に感激して、もともと仲が良かったと思うのだが、よりこういう状況だからこそ玄徳への信頼を強くしているようである。 「いいもんか。蓆を売って細々とやっているような状況だし、これだけの馬を引き連れても俺は単なる用心棒だぜ。」 「いや、お前ならきっと天下を取れるよ。なんなら俺がお前の仕事をうまくいくようにいろいろ手伝ってもいい。いろいろ教えてやる。」 そう言ってけっして強気ではない玄徳の肩を抱き威勢をあげる。 「俺の仲間にも声をかけてやる。だから、うまくいったら俺達を部下にしてくれよ。」 すると玄徳は真顔で肩をつかみ男へ言い聞かす。 「だったら、それまで絶対に死ぬなよ。」 そう言うと、今度は官軍の詳しい話を聞かせる。 「袁紹の軍は頭の良いやつが多いが決断力が遅く、早めに退いた方が良いだろう。逆に董卓の軍は攻撃に回ると強いが、守勢に回ると弱い。また狭いところだと持ち前の牙の能力が使えずもろいだろう。 あと若い将校で曹操という男が決断力も早い上、一族の物が有能で隙が全くないから避けた方が良い。 それを頭に入れて、絶対に死ぬなよ。」 そう言って強く握りしめる。 (この人は損得がなくても、親愛の情を持つ者に対しては強い優しさと思いを持っているのだろう。) 口ばかりの男でないからこそ、玄徳は人を引き寄せる力があるのかもしれない。
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