月姫抄−6− |
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2008年05月11日(Sun)
月姫抄−6−
(それはまるで用意周到に準備された策略だったかのように。)
更に浦島は追撃を加えた。攻めることばかりの備えしかしていない須江の水上の館は抵抗する間もなく火が放たれ、密かに内通していた者達や、両家の争いに中立を示した者達も束になり攻めまくり、その夜のうちに須江氏の滅亡は決したのだ。 月姫には訳の分からないまま、逃げ延びる船に乗せられ、訳の分からないまま混乱する船に乗せられた。 そして訳の分からないうちに火を掛けられ、訳の分からない人達の混乱が船のバランスを崩して、訳の分からないまま海に投げ出された。 (そして、訳の分からないまま死に一生を終える。) 光は全てを焼き尽くそうとする欲望の炎だけがはっきりと見える。 (この世には、欲望の情念しかないかのように) 彼女の命は真っ黒な海か、その炎に飲み込むその時を待つだけしかないようであった。 そのとき懐かしい声が聞こえた。 「月姫か……」 「須江殿。」 義理の父上。そして本当の両親から引き裂き、養女という名の下にこの命を須江の館に閉じこめた者の声。 あの時以来数回しか会って居らず名ばかりの親子であり、一片の情を感じたことのない相手であったが、久しぶりに見た彼はあの時の……瀬戸内の守り神を手に入れたという自負と強い権力と傲慢な姿をのぞかせていたのに今はその様子はなく、敗北により酷く疲れて居る感じがした。そしてしがれた様は当主の威厳はなく弱さをさらけ出したままで、まだ年若の彼女に対して救いを求めるように声を掛ける。 「早う、我が手を取りこちらへ寄れ。」
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