月姫抄−3− |
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2008年04月17日(Thu)
月姫抄−3−
「月姫殿。結構な舞でした。さぞや瀬戸の民達も神々もその舞に心揺り動かされたでしょう。」
舞が終わると、側室で領主の寵愛をもっとも受けるといわれる甕姫から、労をねぎらわれるように声を掛けられた。 彼女は正室の乙姫とは家柄が違うため下に置かれているが、古くからの浦島家の家臣庄戸氏の娘で、水軍の将達とは地元と言う事でつきあいが深く信頼が厚く、夫が今回のような遠征の折りには実質的な領主の妻として一切を取り仕切っていたのである。 色黒で乙姫に較べれば気品とか器量とかは劣るが情愛に満ちた瞳を持った優しい容姿の女性であり、人の好みの違いはあるが魅力的な部分では決して引けを取らなかった。何より生命感溢れる立ち振る舞いは、海の男達を畏怖し、都育ちの正室には決して口を挟せないで力があった。 また気質も聡明で周囲に対して配慮が出来る女性で、若く流転に運命を翻弄される月姫に対しても唯一周囲とは違い、いつも優しく接してくれるし、また領主の代行者として月姫の神に仕える巫女としての立場も重んじ立ててくれる。 「さぁこちらでゆっくり体を休めてくだされ。」 そう言ってこの時も立ち上がると自ら席をおり席を譲って上座の方に案内する。 「瀬戸の守神として遠慮なされず上座にお座り下さい。」 「・・・・いいえ、結構です。つづいて竜宮で戦勝の祈りをいたします故、屋敷へ戻らさせていただきます」 甕姫の配慮は大変ありがたくはあったが、それを辞する。乙姫やその側女達が厳しい視線の中に飛び込むのは、まるで荒れ狂う海に飛び込むようで、悪意の視線の波に身を絡まれて光の届かぬ所まで飲み込まれそうである。他の者達も好奇の目で見たりするので、座ったとしても居心地が悪いだけに違いなかった。 (こんな私への反感が一杯の屋敷の中に居ては、息が詰まりそうだ。 気晴らしに早くここから出て、馬に乗り広く澄んだ海を見たい。) せっかくの温情に感謝の言葉も付け加えることはなく、さも用事が済んだと言わんばかりに形式的に頭を下げると、そそくさと背を向け広間を出て行く。 |
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カレンダ
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