ケイタイ小説カフェ「ソルノチェセル」 - 2008/07/12
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2008年07月12日(Sat)▲ページの先頭へ
猫の小道「命日」上編
その日は普段と特に変わらない一日の筈だった。
君は僕に餌をあげると、何気ない顔でいつものようにご主人を送り出した。 「さて」 そう言うと彼女は服を着替え始めた。 結婚してから主人の趣味なのか黒とか、白とかそう言う落ち着いた色の服を着ていた彼女だが今日に限っては桃色の可愛い服を着た。 そしてピンクの口紅を付けながらいつもの彼女とは違うように、少し前に流行った鼻歌を口ずさみ、そして家から僕を追い出すと、白いマーチで出て行った。 ☆☆☆ 真っ青な空に浮かぶ雲のように、白いマーチは高台へと上っていった。 そして、真っ青な湖の見える墓地でその車は止まった。 「ふう。」 ため息を一つ付いて意を決して高台の墓地の更に上の方にあるお墓へ上っていく。あまりそう言うところを歩くには向かないハイヒールで一年に一度しかはかないような靴で、一年に一度しかはかない服で上っていくのは意外に難儀なことだった。 「さて、」 そう言うと、ポケットからたばこを取り出し口に挟み、息を吸うようにしながら火を付けた。 そしてそれを線香の代わりにお墓に立てて、手を合わせる。 「絢ちゃん。来たの。」 そんな声が背中の方からかかる。振り向くと性別は違うと言え、あの人が立っているような……そんな雰囲気を持つそんな女性が立っていた。 「こんばんわ。」 「絢ちゃん。来てくれてありがとう。 でも貴方はもう結婚したのだから、無理にここに着ない方が良いわよ。 旦那さんの木津さんにも悪いし。」 拒絶すると言うよりは、諭すように女性はほほえむ。その笑顔の口元に去年なかったしわがあり、目元もどこか元気なく、この一年でめっきり年を取った感じがした。 「こういうことを言うのも変だけど。すごく何も見えなくなるぐらい息子のことを好きだったから分かるけれど、でもいつまでも死んだ人間を思い続けることは、旦那さんが居るとか居ないとかにかかわらず良くないわよ。 貴方は欠かさず命日に来てくれるのはうれしいけれど、もう彼の友人達も親戚も貴方のように毎年来る人間なんか居ないのだし。」 そしてもう一度言う 「だから、死んだ人の事はもう忘れてしまいなさい。こんな所を貴方の旦那さんが見たらいい気もしないだろうしね。貴方にとって木津さんが一番大切だから。」 「私にとっては死んだあの人よりも、木津が一番大事です。」 黙っていた彼女は、きっぱりとその女性に言った。 「私は、私を愛してくれる木津を愛しています。364日間は彼のことだけを考えて生きています。 でも一年に一日だけは死んだあの人のことを思ってはいけませんか。」 「だって、あの人は君でない好きな人のために死んだのだから。一番好きな人じゃないのだから……」 女性はそう言いかけて、止める。その現実に一番辛いのはあれだけ彼のことを愛した絢自身であり、かなり痛い言葉であるはずだから。 でも彼女は笑顔で、痛みも悲しみもない様子だった。むしろそう言う物を超えてしまったかのような穏やかな悟りきった表情であった。 「それは知っています。もしかしたら私が今1年に1日だけ思っていても、向こうは全く好きでないかもしれないことも。」 「絢ちゃん」 「おばさま。人の愛情って本当にすべてを好きになる言うことがあるのでしょうか。私はそうであるとは思わない。木津だって100%私を愛することなんかあり得ないと思います。人は誰しも欠点とか嫌な部分はあるのだから。」 その時もう一度絢は確認する。死んだあの人に愛情とそれとあるいは同じぐらい嫉妬と憎しみがあったことを。 「だからこそ、誰かを愛すると言うことはお互いに努力したり、嫌な部分を受け入れたり我慢したり、優しくしあったりしないと成立しない。」 所詮は恋人であったり、夫婦であったりしても、自分ではないから。 「だから木津のために木津だけをほとんど考えて私は生きて居る。 私が、一年に一日だけあの人を思うのも結局は1%にも満たない気持ちにすぎないんです。」 そう言うと彼女は彼の墓前で手を合わせる。同時に木津に対しても心の中で手を合わせる。 (だから、貴方は自分のことを忘れろと言うけれど、一年に一度だけは貴方のことを思うことを許してください。) (私という人間の何分一かを作ったのは紛れもなくあの人だから、一年に一度だけはその部分を捨てられないから、許してください。) |
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カレンダ
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