ケイタイ小説カフェ「ソルノチェセル」 - 2008/07/10
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2008年07月10日(Thu)▲ページの先頭へ
猫の散歩道−歌姫−
「おいで真琴」
そう彼女は僕を呼び頭をなでる。 真琴という名は彼女が言うにはとある小説に出てくる香港の「歌姫」の名前らしい。 他ではゴンゾーとか、けむんぱすなど呼ばれていることを考えれば、性別は間違っているが、それ程悪くない名前なのだろう。 彼女は、僕という猫に餌をくれる人の一人だ。 出会いはとある地方都市の駅で路上ライブをやっている時、客が居ないときに僕を見つけチーズをくれたのが出会いだ。 その彼女は不機嫌そうだった。彼氏が居て仲良くやっているようでずっとこの所機嫌が良かったのだが、最近「彼は大人でずっと私よりもしっかりしている」とか「やさしくしてくれる」とかほめてばかり居るのに、その割にだんだん暗くなってきている。 というか暗くなっていくと言うよりも、些細なことで感情的になったり、落ち着かなかったり・・・何かに怯えているような感じがした。 携帯がなると決まって最近は怖い顔になる 「幸之助っ。怒っていないよ。私がわがままなのは分かっている。でも、ちょっと」 何事か話していたが彼女は力もなくうつろな感じで返事をするばかりであった。 そして電話を切る。 「分かっているのよ。このままじゃ駄目だって言うことぐらい。音楽でご飯を食べていく事が大変なのはコウちゃんの方が良く分かっていることも。」 そういいながら、彼女は今時珍しいカセットデッキを再生させる。 アコーステックの音楽が静かな部屋の中で流れていく。 心地よい音楽の中、彼女は僕の体を抱く。 「この音楽はコウちゃんと最初に会ったときに弾いてくれた音楽。 すごくギターが上手でとても心地よくていつまでも聞きたいって思った。」 この音楽を聴いてから余計音楽にのめり込んだ。 だからこそ「せっかくの仕事のチャンスだし、結婚が近いからもっと二人の時間を増やしてほしい」と言われた時、裏切られた気がした。 「でもコウちゃんの方が年上だし、絶対正しいんだよね。」 −だって、私よりもずっと上手なコウちゃんでさえプロになれなかったのだから。諦めなければならなかったのだから。 同じ道を歩いてきたから、なにより世界で一番私のことが好きだからこそ、敢えて心配して大事にしているから、そう言ったのに。 誰より私が貴方の優しさを知っていなければいけないから、貴方の言葉を大切にしなければならないのに。 「なのにどうして涙が落ちてくるの。」 僕は彼女の腕の中からぴょんと飛び出すと、部屋の片隅においてあるギターのそばで丸くなる。 「そうか、真琴は私のギターの音を聞くと気持ちよさそうに眠るんだよね。」 何かを吹っ切ったように一つ息を吐き捨てて、彼女は弾く。 僕は猫だから、音楽のことは分からない。 まして猫だから彼女を勇気づけることも、彼のように猫の僕の人生よりも長い彼女の人生を思い考えてあげることも助けることも出来はしない。 でも許されるのなら彼女のギターを聞いていたかった。 こんな風にずっと彼女のギターを聞いて眠っていたかったんだ。 FIN 連載「猫の散歩道」 とある地方都市の猫の見つめた風景 あるいは猫の居る風景 ショートストーリーまたは駄文 掲載中 一話完結型なので、それぞれ独立した話です。 |
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カレンダ
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