ケイタイ小説カフェ「ソルノチェセル」 - 2008/06

刹那のミニミニ小説+連載小説のサイト。

2008年06月30日(Mon)▲ページの先頭へ
月姫抄10
 そう思ったからこそ、道理を説いてそれを封じる。
 「されど、今は主が遠くで戦場にいる最中に戦勝の神事でなき場所にて踊るのは、不謹慎でござりましょう。
 お誘いはうれしいのですがそのようなことをされては後日主殿に『病なのに舞を見る余裕があるのなら、戦に赴かれればよかろう』とお父上に申されることでございましょう。」
 (だから辞めた方がイイですよ。)
 と、逃げるように維盛に背を向き立ち去ろうとする。
 「あいやっまたれぃ」
 そうしようとした月姫に対して大きな声が突然掛けられる。維盛は何回も誘いを掛けられるが(←ことごとく玉砕)そんな形で、呼び止められたことはない。振り向けばあの小柄で貧相で禿げネズミのような維盛の従者が前に進み出る。
 (びっくりした。)
 綺麗物好きの維盛殿にしてはどえらく百姓じみた薄汚い下品な感じがする男を側に置くと思ってはいたが、声は大きく、小柄な体にもかかわらず立ち振る舞いは立派で大きく見える。なにより絶えず笑顔を海の波のように讃え続け、月姫が目を向けても目は猫のように細めても堂々と温かくそれを受け止めている。
 はっきり言って、この従者の方が維盛よりも度量が大きく、下手をすればこっちの貧相な男の方がよっぽど月姫には主に見えてしまう。
 (家中にこのような物が居たのか?)
 「どこの者じゃ。」
 静かな、でも押し殺したような声で直接従者へ月姫は問いかける。
 凛として綺麗な声でありながら、言われた男にとっては刃物を突き立てるような、一瞬の隙もない言葉に聞こえる。
 だが男は、人を食ったように微笑み続け甘んじてその刃と向かい合う。
 まるでどんな刃を振りかざしても、倒れぬと言わんばかりに堂々としていて。
 そんな二人の心の刃の斬り合いをぼんやり見ていた維盛は慌てて助け船を出す。
 「月姫、この者は我らと商いのある京の茶屋宗永殿が日頃のお礼に小者を一人使っていただくようよこして。
 月姫どのには周りにはお付きの巫女は居ますが身辺を守る男手が居ない上、是非にこの者をおそばにお使いいただきたい。と」
 「この男をか?」
 そう言われても、護ってくれるはずの男の方がスケベそうな笑みを隠すことなく陽気に浮かべており、却って月姫には身の危険を感じる。


2008年06月29日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−9−
そんな玄徳から戻ってすぐに「会ってもいい」との旨が便りに来る。
しかも行き会うところはとある草原である。
人の多いところならもめ事になったら大変であったが、野生の虎のような張飛にとっては、そういう広々とした場所は暴れるのには最適な場所だ。
「傭兵を取り仕切る男としては、いかにも不用心な事だ」
関羽はそう思ったが、そうならこっちには都合が良いと言えた。
張飛ぐらいの腕前なら、関羽以外にかなう者が居るとは思えない。後は玄徳が張飛の迫力にびびって逃げ出してしまうことが一番心配であった。
「それなら俺の手下を草むらに潜ませて取り囲めばよい。」
張飛はそう言うが、相手の方が手勢は多くそう上手くいくとは思えない。

 ところが玄徳は待ち合わせの場所へ部下達を連れてこず、わずかな供の者数名を連れてきただけであった。こっちが無理矢理にも従わせそうと思っていることを相手は露とも知らない様子である。
 (何か策があるのか)
 兵法に通じるだけに用心して関羽がつぶやくが張飛はそれを否定した。むしろ奴の姿を見て安心したようだった。
 「あいつは、単なる腰抜けだ。勇気などない。」
 張飛は玄徳を見て驚いたが、怖かったりびびった訳ではなく、以前会った人間だったからだ。
 (あいつは、義勇軍の立て札を見てため息をついていた耳デカ男。
 あんな奴でも傭兵の軍団長になれるのなら、俺ならいくらでも出世が出来るはず。あんな奴なら従わせるのは何でもないはず)
 そう思い得意の大声の口上でびびらせる。
 
 


2008年06月28日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−8−
証言1黄巾党の将校
「玄徳、彼は天下一の侠客だ。」
−侠客ですか?
「ああこの辺位置の不良少年だよ。
 まあ、もう少年という歳ではないから不良青年と言うところか。
 まあ中年でも少年隊とかいるだろう。」
−そんな人は知りません。
「とにかく良い奴だよ。あいつの悪口を言う奴はゆるさんよ。」
注※証言者の希望により音声を変えてあります。

証言2友人
注※有名人のため、目線で隠してあります。
「あいつは勉強もせずに馬とか衣装とかに凝っていて、とにかくいつも遊びまくっていやがって。うらやましいというか、もといっそんな事をしていて廬植門下として恥ずかしくないか。」
−頭が良いというか、軍略に優れている人格者というわけではないのですね。
「そんな分けないだろ。学校での成績もかなり悪かった方だよ。
 悪知恵が働くように思われているが、本人は不良で好き勝手にやっているだけだよ。
 それにあいつは無礼だろ。先輩に向かって器量が小さいとか、白い色がおれ様は好きなんだけど『自分の女の下着も白にしろ』とか女に言っているだろうとか、失礼なこと言いやがってあいつは白馬将軍と言われた俺様をちっとも尊敬しなんで」
−貴方は公孫讃?ですか。
「ああそうだよ、自分の女には下着は白にしろと言っているよ。純白を男は清楚の象徴と思うのは当然じゃないか。白こそ男の浪漫だろ。」

証言3部下
 「玄徳様は尊敬できる上司だよ。普段は物静かだけど、色々丁寧に俺達の言い分も良く聞いてくれるし。怒ったり怒鳴ったりしなくて、結構色々自由に任せてくれるから、仕事はやりやすいよ。」
−武芸とかはどうですか。用心棒を取り仕切るには腕っ節が強くなければいけないし。
 「武芸ですか?刃物見るだけでびびって居るし、意外に努力とか嫌いそうであんまり本人は得意ではないようですよ。
 むしろ馬を乗るのが好きならしく、安い馬や癖馬をよく走らせて馬商人の手下からもそう言う面では一目置かれているようですが。」

(要するに、武勇に優れているわけではなければ、兵略に優れているわけでもないのか。)
 そんな事で傭兵達を束ねられるのか、関羽は心細く思う。
 同時に張飛は腕に物を言わせて玄徳を従わせようとしているが、物静かであまり武芸には興味のない彼が、そんな張飛の呼び出しに応じるとはとても思えない。

 


2008年06月27日(Fri)▲ページの先頭へ
耳鳴り
あの言葉が耳に残る
もう居ないのに、いつまでも心に残り
涙があふれる

怒られた言葉が耳に残り
臆病で、自信がなく、逃げようとする
私が居る

終わったのに
振り返り、その姿を捜してしまう
きっと耳鳴りなのに
「好きだよ」ともう一度
懐かしい言葉を探してしまう


2008年06月26日(Thu)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−7−
しかし本人は小突いたつもりでも、酔っぱらっている人間は加減という物を知らない。
ただでさえ力が強いことを本人は忘れている。
 兵士はぐったりしたまま動かない。
 「おい大丈夫か。」
 (たださえ仲間が少ないのに自分で減らしてどうするんだよ)
 関羽はとんでもない彼の言動に正直止める気にもならない。
 「大体呼んできてどうするつもりなんだよ。どうせ、せっと」
 「それは・・・・説得するのに決まっているだろ。」
 そう言いながら張飛は指を鳴らしている。
 (だから殴って言うことを聞かすのが説得というのかよ。)
 「とりあえずだな。俺は正義のため黄巾党の奴らをぶっつぶすので、俺様の手下となってボロぞうきんのように働け。正義のための戦を拒むことは許されないぞ・・・・と兄貴、文を書いてくれ。頼む。」
 (こう見えていいとこの坊ちゃんで字ぐらい習ったのだから、自分で書けよ。)

 仕方なく関羽はその言葉を丁寧に・・・・でも自尊心が強いからどう見ても内容は張飛の言ったとおりの高圧的で押しつけがましい内容で、玄徳へ届けるように手下の一人に手渡した。手下は自分も殴られたら(って張飛自身は小突いたつもりである。)たまらないと思い、あわてて使いに走っていく。

 「これで、俺の軍隊は完成だ。完璧な計画だぜ。」
 そう言いながら、張飛は前祝いと言わんばかりに酒を飲んでいる。
 前祝い。と良いながら単に酒が飲みたいだけなのである。
 玄徳はあいにく別の馬を届けに行ってこちらへ戻ってくる途中であり数日後になるらしい。
 そうとはいえ逆に言えばあと数日後に、その玄徳という者に代わり自分が部隊の長になれると根拠もなく思っている。とは、いえああいう酔っぱらいに脅されれば誰もがびびるし、関わるぐらいならすべてを投げ出して逃げてしまった方が賢明と言える。
 「それに劉備の野郎が拒否ったら、殺せばいいし。ぎっゃははっ」
 一方の関羽は張飛ほど無計画な男ではないので、とりあえず相手の玄徳を調べようとした。いざとなれば文にも通じる関羽自身が(張飛のような意味ではなく)義をもって説得して自分の手下にしてしまえばとも思ったのである。
 その為には相手の情報はあったことにこしたことはない。
 
 

 
 


2008年06月25日(Wed)▲ページの先頭へ
狂犬
目に見えたものを私は吠えた。
差し出された手を噛み、近付く人を威嚇し、
弱みを見せたものは傷付けて
私は生きてきた。

あの時の私は怯えていたのだ。
私を害する手も、優しくする手も
みんな怖かった。みんな信じられなかった。
優しく見える手にどんなナイフが隠されているのか
傷が癒えても、記憶から血が出て
今度は心まで切り裂かれそうで
私は怖かった。

それから知らなかった。
本当の優しさを
あの時の私は何もわからなく
吠えるだけの野犬だった。


2008年06月24日(Tue)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−6−
「滅相もございません」
あわてて、否定したもののすでに涙目になっている。
「そうだろそうだろ。」
と単純な所為か自分に逆らわないことだけで満足そうな顔を張飛して関羽の顔をみて、得意げに「心配するな」と言わんばかりの表情をする。
 視線がそれたのを良いことに、少しだけ安心したのか手下達は思わず小声で仲間内でつぶやく。
「ああ、同じ兵士として戦わさせられるのなら、劉備という男の方が良かったよ。」
「そうそう、俺が聞いた話だと張世平という馬商人が支援者で付いていて働けばたんまりと給料と食料をくれるらしい。」
「それだけでなく、張は良い馬や良い馬具、良い武器も提供してくれるらしい。」
「俺は、三食昼寝付きで都にも行けるらしいって聞いたぞ。」
「まじかよ。だったらこんな所、とっとと逃げ出して。」
と言っているのを、人間としての器官も野生動物のように発達している張飛に聞こえない訳がない。
「誰が、毛むくじゃらの酔っぱらいだと。」
(誰もそんなことは言っていない。)
心の中で関羽はツッ込みを入れたが始めて聞く名前がふと気になる。
「劉備・・・?なんだそりゃ、どんな食べ物だそりゃ。」
思わず殴ろうとする張飛に命の危機感を感じながら、あわてて手下は黙ろうとするが、
「煮てやろうか、切り刻んでやろうか。」
とそいつがにくいのか、手下達にお仕置きをしたいのか酩酊している感じなのでよく分からないのにあたりにかまわず殴ろうとするので手に負えない。

(ピンポーン。作者※注
このまま酔っぱらいにつきあうと物語が続かないので、張飛への説明の前段の部分は割愛させていただきます。)

 「へー。そんな奴が500人以上の傭兵軍団を指揮していて、それを張世平ら幽州の有力商人達が支援しているというのか。
 それで、俺様があれだけ説得しても、懇願しても手下が集まらないというのか。」
 張飛は始めて理解できると、苦虫をつぶしたような難しい顔をする。
 (殴ることを説得というのかお前は。)
 関羽があきれている横で彼は更にない頭を振り絞り十分ほど考えていたが、急にすっきりした顔をしてつぶやく。
 「そうだ。その劉備をここへ呼んでこい。」
 「へっ」
 突然ある兵士と顔があったが、命令したつもりなんだろうか。
 「とっとと呼んで来いと貴様に言っているんだよ。」
 そう言うとその兵士の頭を思い切り小突く。
 


2008年06月23日(Mon)▲ページの先頭へ
楽譜
たった一つの音符が
意味を持つわけではなくて
感動させる物ではないの
いくつもの音符の重なりが
悲しさも喜びも産んでいくんだね

紙に書かれた楽譜を見て
いい曲だねと気が付くことはなくて
誰かが演奏して、
いろんな楽器が重なり合って
始めて曲が生まれてきた
素晴らしさを知る


2008年06月22日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−5−
「って、どこが話半分だよ」
どう見ても張飛が集めた人数は50人もおらず、とても軍隊といえる品物ではない。
しかも弱々しい物、張飛と同じように酒で頭がイッちゃっているもの、どう見てもちんぴらにしか見えない者などとても、兵士といえないような人間達である。
そんな彼らは薄汚い着物をまとっている姿で、武器だけはよく分からない刃物を持っていたり、木の棒を槍代わりに持っている人間などは居たが、鎧などの防具を持っている者は居なくて、遠くから見ると変な人間が集まっているようにしか見えない。
てんでばらばらな人間をなんとか集めてきたという感じであるが、共通しているところはみんな顔や頭や手足に殴られた痕があるという点である。
「こんなんで大丈夫か。」
思わ関羽はつぶやいたが、手下達は逆に顔を見合わせる。
「大丈夫に決まっているだろ兄者。なぁ?」
張飛はそんな空気を気がつくことなく、自信を持ってそう言いきって、手下達を見ると彼らも怯えた様子で「ああ。」と力なく賛同した。
(絶対、張飛の奴脅したな。)
手下達は張飛の目を見ようとしないだけでなく、関羽の方からも顔を背けている。
明らかに関わりたくない。迷惑に巻き込まれたくないというメッセージを目で送っている。
 「大丈夫だよ。兄者。みんなこいつら自ら志願して俺達の仲間になりたいと来た連中だぜ。とりあえず今はこれだけだけど、これから何人も仲間になりたいって言う連中が来るだろうし、こいつらがそれぞれ30人ほど友人や、肉親、親戚など声をかけて仲間にしていけば、あっという間に万の手下が出来るぜ、きっと」
 何を根拠にしているのか、張飛は自信満々だった。
 (って計算あわねえだろ。この人数を30倍したって1万になんかならないだろ)
 そしてそんな自信が手下達には迷惑であった。
 (自分はともかく、親族まで巻き込まれるのかよ)
 そんな恐怖で、思い切りどんびきしたり、げんなりしてしまう。
 「えっ、なんかこの張飛様に文句があると言いたいのか。」
 急に張飛は部下のそんな様子に気がついたのか。それとも単に威嚇したかったのか。木の枝を鞭の代わりに振り回しながら見回し、ドスをきかせる。
 「まさか。黄巾党の野郎どもが帝をないがしろにして暴れ回ったり、お上に逆らって民達が苦しんでいる時期に、そんな窮状を救うために命をかけたくない不届きな奴など居ないだろうなぁ。」
 (悪役だろ。どう考えてもその様子は)


2008年06月21日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−4−
(妥協さえすれば、わざわざ義勇軍になど参加する必要はない)
でも関羽は自尊心が強く妥協と言うことが出来ない男であった。
だからこそこういう不遇の境遇にいるし、それに耐えている。

「いやいや、兄貴。俺には分かっている。
俺も兄貴も、一軍の将として人の上に立つべき男だ。
だから俺達の軍隊を作って世に出るのだ。」
そう張飛は勇む。が、関羽にとって見れば張飛ごときに同格に扱われたことが内心不満だったりする。
(何にも考えなしのお前と私は同格ではない。)
大体にして、張飛という男はとてもまともな人間ではないと関羽は思っている。
常に今で言うアル中で酒を飲み酔っぱらっていて、その上暴力を所かまわずふるう。
しかもたちが悪いことに人並みはずれて腕力が強いからその被害は甚大である。
更に言うなら、この男は人を傷つけたり痛めつけたりすることが大好きな暴力愛好者であった。
本当は豪商の出ながら、彼が肉屋を営んでいるのは生活のためと言うよりも、鳥や豚などを殺して血を見るのが好きだからである。
「俺の手下だけでもかなり居るし、今日義勇軍の募集を見ていた連中に声をかけたら、喜んで俺達の軍に入りたいという奴らがたくさんいたんだ。
兄貴がとりあえず大将で、俺が副将で義勇軍に参加したい奴らを説得して率いれば絶対うまくいくはずだ」
そう言って張飛は得意げな様子で居たが「どうせ、説得なんかしてなくて脅したんだろう」と関羽は思っている。

(それでも悪い話ではないか。)
どんな形であれ、俺の軍隊を持ちたい。そうすれば、役人連中なんかよりも軍略を納め武芸に優れる関羽なら、あんな連中よりもうまくやれると思っている。
「看板を見ていた、耳がでかい手長男はため息ばかりついていて役に立ちそうもなかったが、そういう輩とは別に本当に使える奴らを3000人以上集めたぜ。」
更に張飛はそんなことを言っているが、話半分に聞いたとしてもそれだけの人間が集め訓練をすれば張飛の言うとおり「俺達のための軍隊」が作れるかもしれない・・・・



「・・・・って話半分って、どこがだよ」


2008年06月20日(Fri)▲ページの先頭へ
月姫抄
 不意に月姫は挑発的にじっと見つめ問いかける。
 「それは……、父上が病気であるし、瀬戸内にはこの戦いの最中でも多くの船が行き交うのだから、それらの運行を守ったり、通行税を徴収したり……それらも戦場で戦うのとおなじくらい大切な事である故。
 まして我らが留守を守っているからこそ、主殿も安心して戦えるのでございます。」
 「左様か。」
 なるほど維盛の口上は立派な物であるが、すぐに顔を伏せ言葉とは裏腹に語尾もしっかりせずおどおどして心許ない返事をするものである。
 そういえば先代は東の庄戸、西の印野と呼ばれ海では豪勇を誇ったものの維盛の父も年をとった所為からか、戦をいやがるようになり数年前から始まった信長の戦いには病気であることを理由に守備の方に回っている。
 維盛自体は、そのことに対して負い目を感じているからそのような様子ではあるが、だからといって戦に積極的に加わるというのは生来見せることはなく、もっぱら笛や衣装や商いの方にのみ感心が向かっていたのだ。
 (笛を吹く指も女の私よりも綺麗な指をしているし。)
 「ところで何用なのだ?」
 まさか維盛も月姫に皮肉を言われて近付いた訳ではあるまいと思い声を掛ける。
 「月姫に願いがあって。」
 「……願い?」
 「病床の父上の為に回復祈願のために舞って欲しいのだ。」
 そう言って、彼女の袖許をつかみ丁寧に頭を下げる。
 (私などに対して、どうしてそんな風に維盛は頭を下げるのだ。)
 確かに月姫は生き神として、立場的には上に置いてくれるのであるが、実際は須江氏の捕虜という立場である。だからこそ、浦島の家臣達の目も蔑視で見ているのであるが、この実力者の長男坊だけはいつも誠実に丁寧に対峙してくれるのである。
 「その時に、月姫にどうしても話したいことがあるのだ。だから頼むから、我が砦に赴いてはくれぬか。
 豪華な料理も用意する。堺から取り寄せた美しき衣装も用意して居る。だから是非。」
 何かと熱くこの殿方は誘ってはくれる。もしかしたら、先程の舞で色々暗くなっている月姫のことを思ってくれてなのかもしれないが、当の本人はそう言う優しさに対しては鈍感であり無頓着な性格であった。
 (とはいえ、どうせ戦に出たくないからの病気にどうして舞わねばなるまい。)


2008年06月19日(Thu)▲ページの先頭へ
手品
貴方の手から消えた幸せ
例えみえなくなっても
本当に無くなったわけではなくて

みえなくなったことには
きっと種があるから
見つけて欲しい
どこに隠したのかを
貴方の真実を


2008年06月18日(Wed)▲ページの先頭へ
海心-下-
海の所を通りかがると警察官や消防や野次馬が不安そうなくらい顔をして
あるいは暗く険しい表情で海を見つめては、怒鳴り声のように何事か言い合っている
「・・・・まだ沼津ナンバーのサーファーまだ見つからないのか」
「・・・・今応援の人達が向こう側も捜索しているが・・・」

少女は呆然と海を見つめた。そして、その血色の失った顔とは裏腹に
何度も自分自身をののしり、何度もその海へ自分の心を叩き付けた
(・・・・あの時、あの男の人を一瞬激しく憎しんだから、海が荒れこんな風になったの)

その時、無線の声が当たりに響く
「何。見つかった?自力で辿り着いて今救急車で搬送中。命に別状はなし・・・か」
次の瞬間朝見た女性は膝をつき、綺麗な顔をくしゃくしゃにしながら
黒い大人びた髪とは似つかないほど甲高い声で、嗚咽がまるで笑っているような感じで
何とも言えない・・・泣き声か喜びの声か分からない叫びを上げる

それを見ながら、逆に少女は冷静に「よかったね」とその少女に呟く。

その時、少女は始めて自分の心を知った。
まだ本気で誰かを好きになることなど無かったし、想像もしなかった。
でもこの海のように、穏やかな心の中に
突然誰かを激しい波で飲み込み荒れてしまう。
そんな心があることを。

(海を嫌いだったのは、本当はそんな気持ちを諭されるのが
子供が大人に怒られるのが嫌なようなものなのかな)
海を見て穏やかだったとき、
いつもこの海のように「穏やかな気持ちにならないと」と
思って一日を過ごしていたから
穏やかな気持ちになれたのかも知れない

海が私の気持ちを不愉快させるのではなく
今思うと、私の気持ちが海をかえたのかも知れない。
「・・・・さて帰らないと」
通学路に沿う海はいつも私を見つめてくれる
いつも私を諭してくれる

私とずっと一緒に私を見守ってくれる


2008年06月17日(Tue)▲ページの先頭へ
海心-上-
少女は学校に通う道すがら
それに沿うように広がる海を
見つめるのが嫌だった。

穏やかな海の時は穏やかな心で居られた
輝く海の時は、輝いた気持ちで居られた
しかし、
嵐の日は波のように心は荒れ果ててしまう
曇った日にはどんよりとした心がつづく
まるでこの海をみると私の心が見えるようで嫌だった。

今日は天気のいい一日だったから
穏やかな気持ちで居られるから
さほど海を見るのは苦痛ではなかった。
でも、こういう穏やかなときは
高い波を求めるサーファーは来ないのかな
なんて思って海を見つめた
「あれ。」
いつも何故か気になる、焼津ナンバーの男性が
今日も来ていた。そんな彼の所に
髪の長い女の子が近付いて話をしている

(この海のように穏やかな日なのかなって喜んだのになんなの)
突然不愉快になり、自転車を急いで漕ぐ
よく考えれば好きとか考えたこともないし、あの女性だって単なる
サーファーの仲間なのかも知れない

(それなのに、なぜ不愉快な気持ちに私がならないといけないのよ)
そんな事を自分に言い聞かせながら、授業をずっと聴く
あの穏やかな海と違い、自分だけこんな気分をあじあうのか

そんな思いを持ちながら学校を出る。すると雨が降り始める
(今日は最悪な日だな)
そう思いイライラすると、余計雨は強くなり、雷が今度は鳴り始める
慌てて自転車を漕ぐ。また曇って暗い海を見ると
どんよりとした気持ちになりそうだが、この雨ならそうも言ってられない



2008年06月16日(Mon)▲ページの先頭へ
予定外の出来事
貴方を好きになろうと思って
貴方と友達になったわけではない。

貴方を恋人にしたいと思って
好きになったわけではない。

貴方を苦しめたいと思って
告白したわけ出来ないから


2008年06月15日(Sun)▲ページの先頭へ
真三國志関羽編−3−
「ついに俺達の出世の道が開けるぞ」
「・・・・」
「義勇軍の募集がついにあったぞ。」
(なんだ。)
とても良い情報と喜んでいる張飛に対して、関羽は別に驚きもしない。
(義勇軍の募集など、他の県では結構出ているし。)
関羽自体はそれが出世につながるとは思っていない。
そんな感じで特に感銘した感じのない様子に張飛は拍子抜けする気分だった。
「なんだよ。戦に出れば兄者の兵学の知識や優れた腕前でいくらでも戦功が上げられるだろ。そうすれば俺達はいくらでも出世できるぞ。」
「本当にそう思うか。」
「俺にかなう力の持ち主など、そうはいないぞ。
兄者もそうだ。兄者のような青竜刀の使い手で、弓にも通じている男がどれほど居るだろうか。いや居るわけがない。」
自信を持って張飛は言い切る。
「兄貴だってそう思っているだろう。」
自尊心の強い関羽は心の中ではそれにうなずく。
でも、それが本当に関羽には出世になどつながるとは思えなかったのである。

確かに関羽・張飛の二名がいればいくらでも敵の首は取れるかもしれない。
だが多少の戦績をあげたところで、県の軍隊に組み入れられたとしても小さな小隊の隊長になれる程度の話である。
そんな下級役人になったところで黄巾党の圧倒的な人数に飲み込まれるだろうし、もしも諸侯が争うようなことになったとしたら、黄巾党ですら手が余り義勇軍を募集するような政府連中が一体何が出来るというのか。
そんな軍隊に組み入れられたところで、乱世の荒波に飲み込まれるだけであり、県令などの役人に良いように使われるだけである。
(そんな者になるためにこの力を無駄になど出来るか。
 そんな小役人になど、俺の力を持ってすれば簡単になれる)
でもそんな物が彼の望みなんかじゃない。
(俺はもっとやれる男だ。天下の一軍を率いて、英雄として名を残せる男だ。)
そんな男が小役人に頭を下げてなどというのは彼の自尊心が許さないのである。







2008年06月14日(Sat)▲ページの先頭へ
たまご
手放してしまえば
簡単に壊れるたまご
追いおけば腐るたまご

貴方の暖かさに
流れゆく涙は
固まっていくもの

もしもずっと貴方の温かさに
守られたら
私の心は飛ぶことが出来るかも


伊藤課長補佐−予知・後編−
気力がないといえばこの仕事もそうだ。一応一流企業に入れたものの後輩には抜かれ、上司には雑用ばかり押し付けられる。
「伊藤君。先日の商談の件だが、この職場のエースの須賀君に行って貰うことにしたよ。これで、君の仕事の遅れの分が取り戻せて僕は安心だよ」
そう言って上司の田中は、女子職員や部下達に「飲みに行くぞ」とはしゃいでいる。
伊藤の頭にその時田中が奥さんから浮気の証拠がばれて今日酷く怒られ別居させられるビジョンが思い浮かんだが、それを言うのをこらえる。
前それを正直に言ったらあの女子高生以上に怒られたし、それが当たったら今度は逆恨みをされた。大体、自分を陰でバカにししている連中がどうしようと知ったことではなかった。

お昼休み例のカツ丼の店に行った。
案の定、今朝見た男がこの世の幸せは他にないという顔で、伊勢エビ入りの天丼を食べていた。
それを見て伊藤は天丼を頼むが無常にも「売り切れです」と食堂のおばちゃんはすまなそうな顔ではなく、七福神の恵比寿様のようなとてもありがたそうな顔で笑っている。

伊藤の能力はあくまで他人限定の物だった。自分に関する未来が分かれば競艇や株などで大もうけが出来るのだが、自分の物になると雑念が入るのかどうか見えないのである。
車に轢かれて死ぬ女の子も、あの場か上司もそうだが、往々にして自分の不幸と言う物は見えない物なのかも知れない。

職場に帰ると上司が電話を掛けながら先方には見えないにもかかわらず頭を下げている。先程商談が上手く言った会社から、何か文句があるらしい。
「あれは伊藤が問題がありまして、えー。今度はうちのエースが誠意を持って対応しますのでご安心下さい。」
そう言って相手を上司はなだめている。昔だったら伊藤も冗談じゃないと叫びたいところだが、言ったところであのハゲオヤジは「そう言うことにしておけば、商談が上手くいくんだ。うちの会社の為になるんだ」といって相手にはしないだろう。

つくづく正直者は馬鹿を見る職場だと思う。
こんな職場ではなく、高校卒業後も地元から出ず今は弟が継いでいる農家を手伝えば良かったと今後悔したくなるときがある。
でも親の強い勧めも断り、農協に就職しなかったのは自分自身だった。
ただあの時は前しか見えていなかった。いい給料を貰いたくて、がむしゃらに働ければ幸せになれるとあの時は思っていた。

「・・・・お母さんたちは私のこういう未来が見えていたのだろうか」
同じように高度成長時代に就職し苦労し続けてそのあげく、定年前にリストラされ実家の農家を継いだ両親は、息子が東京に出るとき、就職するとき、自分達の経験から、息子が苦労することも分かっていたのかもしれない。

(結局あの女の子も、会社のハゲ上司も、私も同じか・・・)

後悔は後に立たないと言うが
結局人は自分を過信して人の言う事は聞かない者。
例え他人の未来が分かっていたとしても、どんなに正しいことを言ったとしても、相手にそれを聞く気がなければ、人は痛い目を見るまでは誰も止められない物なのかも知れない。


2008年06月13日(Fri)▲ページの先頭へ
予知−エスパー伊藤課長補佐−上編
ちょっとさえない伊藤課長補佐は、
ある日突然予知能力に目覚めた。
ある人の未来が突然見えてしまうのだ。

朝の出勤途中、上機嫌そうな男がふと目にとまった
その男が、美味しそうにどんぶりを食べている姿が
ビジョンとして見える。
「・・・今日はあそこの天丼にしてみるか。」
そんなことを考えながら歩いていると
髪の毛を真っ青に染めた女の子と肩がぶつかる
「ちょっとどこ歩いているの。」
そんな彼女の叫び声と共に、あるビジョンが思い浮かぶ。
「・・・・・」
「ちょっと・・・おかしいんじゃないの貴方」
彼女は意外に若く高校生ぐらいであろう。綺麗な顔立ちをしていたが
年が幼いせいか化粧が上手でないらしく、よく見ないと美人に見えない。
そんな彼女の顔が、突然跡形もなく硝子の破片と共につぶれ血が飛び散る。
そして、急ブレーキの音。
「・・・・君。今日は遊びに行かないで大人しくしていた方がいいんじゃないのかな」
小さい声で言葉を選びながら、さりげなく話しかける。
しかし、どんなに言葉を選んだところでその努力は明らかに徒労に終わることは明白であった。
「はぁ。」
バカじゃないの?その言葉は言わなかったけれど明らかに不審そうな顔をした後、係わること自体が無駄であるのか、あるいは早く変な男から逃げ出したいと思ったのか姿を消す。明らかに、信じていないことは確かであった。

「・・・・はぁ」
同じ言葉を伊藤は遙かに低いテンションではき出した。
ああいう顔をされるのは分かっている。確実に彼女はこの後交通事故で死ぬだろう。
だからといってどれだけ説得をしたところで、絶対に彼女は変な男が頭を狂ったことを言っているという程度で信じないだろう。
だから彼自身も、積極的に彼女を助けようとする努力もする気力がなかった。

あと一回つづく


2008年06月12日(Thu)▲ページの先頭へ
夜空に輝く星
暗い夜空に輝く星
たくさん輝いてと願う私

いつまでも私の希望であってと
願う思い

輝く星を地上の人が
どうすることは出来ないから
声を掛けるには、手を伸ばすには
余りにも遠すぎるから

遙か遠くで輝く貴方を
美しいと思うから
何も言わずに、何も届けずに
ただ心の中に焼き付けながら
その姿をより輝くことを願い続ける


2008年06月11日(Wed)▲ページの先頭へ
明けない夜
やっと寝息が聞こえると「やれやれ」という
言葉の後で始めてため息をつくことが出来る。
あれだけ騒いだのが嘘のように天使のように微笑んで
寝ていると複雑な気持ちになる。
子供ならそれで許せるような気がするけれど
それが自分の母親であることがどうしていいのか
静枝をわからなくさせている。

よく年寄りは段々子供に帰っていくと言うが
子供のように素直になっていくのなら
子供のように言う事を聞いてくれるなら
どんなに楽だろう。
子供のように怒れればどれほどいいのだろう。

中身は子供に返っていくのに
・・・・だから、多少のわがままは許してあげないと
と、娘はいっちょ前に私を諭すが、
母親は昔呉服屋の娘であっただの
年をとって何も出来なくなっているのに
プライドの高さだけは、若い頃そのままであった。

朝から今日もこっちの気が変になりそうな一日だった。
やれ現金が無くなっただの、私が母の悪口を言っているだの
そんなことばかり言い、黙って出ていっては
よその家にまで迷惑を掛けて謝りに行った。
さらに時間間隔をなくしたらしく、夜遅くなって医者にいきたいだの
そんなことばかり言って、最後は喧嘩になってしまう。

脳の病気だから仕方ない
そうお医者に言われて分かっているが
起こっても慰めても、無駄と分かっていても
しなければ何時までもきりがない徒労
結局今日も2時間ばかりそんなことをやっていた。
ちっとも眠る時間になっても眠れなかった。

「こうしておいても仕方ないから寝ないと」
明日は夫の休みで、こないだ母が迷惑を掛けた医者に
謝りに行かなければならない
こういう事情があっても、世間はそう言うことが分かってくれない
何かあれば「自分の母親でしょ」「愛情をかけないからそうなるのよ」
という人がいるし、気の利いた人でさえ「そう長く苦労することでは
ないから我慢しなさい」と気安く言うのだ。

「夜が明けなければいいのに。」
例え明日になっても同じ苦しみが続く。そんなことをもう何年も繰り返した。
しかも頑張ってもこういう病気は頑張った分だけ状況が良くなることはない
限りなく100に近いパーセントで段々悪くなっていくのである。
(それに対しても努力が足りないからと周りは言うし。)
若いうちなら耐えられる。でももう何年もそんな状況が続く。
母親の面倒をほぼ毎日見なければならないために、外出もままならないし
旅行なんかも行ったことはない。
子供の面倒を見てから今度は自分の母親の面倒に自分の人生を費やされて・・・・

母の付けていたテレビから同様の歌が流れると思わず口ずさむ
高校の時合唱をやっていて音楽を続けたかった。
いつかプロではなくても同級生達と合唱をやっていきたいねと
良く集まったとき話していた。
でも家庭がそんな状況ではとてもそんなことをやっている暇も余裕もないし
第一同級生達とも会う機会さえなくなっている。

いつまでそんな暗い闇が続くのだろう。
何のために私は生きているのか、生きていたのか
そう言う考え方が一番不味いことが分かっているのに
ドラマであればそこから歯車が狂い始めるのに
問いかける自分がいる

「合唱なんかなくたって生きていける。」
だからそんなのなんか甘えだと口に出せば言われることは明らかである。
でもそれが中学生の時の唯一の希望であり光だった。
けしてそんな小さな光なら本当は贅沢な願いではないはずだ
ミュージシャンとして仕事をしなくてぷー太郎で行きたいのとは訳が違うから。
それさえも母がいるかぎり許される状況ではなかったし
世間と呼ばれる人達は「生きている限り面倒を見るのは当然」
とさも道徳ぶったヒューマリズムを振りかざし、それを受けなければいけない人達を
サディスティックにいたぶって喜ぶだけなのだ。

 人は平気で「光が無くてもモグラは生きているから生きられると平然」という物なんだろう。でももしこの地球に夜が来てそれから永遠に夜が続いても生きていけると思っているのだろうか。

 それは必ず夜が永遠に続くはずはないから・・・・と思っているから、そういう心の奧には前提があるから、たとえ話にしからならない。と思う。

 「永遠に夜が続く事がないように貴方の苦労が永遠に続くことがないから。」
 そう言って励ます人がいる。
 では、その苦労の終わりは一体何なの?
 問いかけても答えは一つしかない。
 それを望んでいる自分がいたらきっとその心は闇である。
 例えその日が来ても、実の母親に対してそう思わないといけない自分自身の心は
 あまりにも深い闇につつまれ。後ろめたく輝くことは出来そうもない。

 あとどれぐらい続くのだろうか。
 年をとり長年の疲れで段々無理が利かなくなっていく。
 夫も私と母に気を配り酷く怒りっぽくなったり、うつっぽくなりつつある。
 こんな状態でいつまで持つのだろうか。

 この夜が終わったところで明るい日が来るとはとても思えない。
 いつか例え夜が明けても、私にはきっと闇が開けることがない。

 母の心が夜になったように、わたしのこころが闇になったように
 光が必ず差し込まないことをしる日が
 必ず心には明けない夜がいつか訪れる。
 「人生なんてそんな物よ。
 望む望まないに関係なく
 それがその人の運命だから仕方ないでしょ。
 受け入れなければ仕方ないでしょ」
 と悟りきったように、私に言った人にも
 等しく。



2008年06月10日(Tue)▲ページの先頭へ
欠航
激しい雨が
激しい風が
私の心を壊すように幾重を塞ぐ

死の海を作り
嵐は私を止めようとする
身をかがめる私を
執拗に傷付けようとする。

何度その海に飛び込もうとしたのか
嵐は分かっているの
何度命を捨ててしまおうとしたのか
海は知っているの

私はもう貴方の嵐に飛び込んだりはしない
風よ散々わめけばいい

でも嵐はいつかは終わる
雨が弱ったらこんな所にとどまったりはしない
私の船は大きな海に出て行くから

風を耐えるのは嵐に負けたわけではないの
貴方の弱ったところを私の軌跡で貫いて
貴方から自由になるため
ただ嵐が過ぎ去るのを待つだけだよ


2008年06月09日(Mon)▲ページの先頭へ
真三国志・関羽編2
「おうおうおうおうっ兄者〜っ」
そう言っている間にそいつはやってきた。
顔を真っ赤にさせながら、ひげ面の男がドタドタ床が抜けるのが心配になるほど大きな足音でやってくる。
「おいっ、張飛何しにやって来たんだ。」
「おっ、青少年諸君勉強まじめにやっとるか」
そう言いながら完璧に関羽を無視して意味もなく勉強に来た子供を小突く。
「だから、授業の最中は来るなって、言っているだろ。子供怖がるし、逃げるし。ただでさえ生徒が少ないのに、邪魔をすんな」
「おっ輪語を習っているのか。そんな物ぐらいわからんのか馬鹿者が。」
酒臭い息を大量に吹きながら酔っぱらっているらしく人の言うことなど聞いていない。
(お前もどうせ分ってないだろ。いい歳して。)
邪魔者が来ると仕方なく授業を終了させざる負えない。
(酔っぱらいが暴れて子供達にけがをさせたら、怒られるだろうし。)
あわてて子供達を帰す。

「本当にすまんな。」
(本当はそんなこと思っていないくせに)
ニコニコしながら、酒臭い上機嫌な顔を関羽に向ける。



2008年06月08日(Sun)▲ページの先頭へ
真三国志の世界+告知
真三国志・先週最初の「玄徳編」が終わり、土曜日から「関羽編」の連載が開始されました。
当初、関羽編から公開の予定でしたが、時代背景を伝えようと急遽、玄徳編のプロットを起こした次第です。

 一番問題だったのは、玄徳の英雄像でした。
 三国志演技に書かれているような、去勢された聖人君主とか、あるいは単なるお人好しのマゾヒスト的な人間像は取るつもりもありませんでした。
 確かに人間的にはすばらしいかもしれませんが、どうしても英雄達が命をかけてと言う人物像にはとても思えないし・・・・
 むしろ、蒼天航路(講談社)の姿が実像に近く、今で言うやくざ者というのが三国志研究者の中では定説であり、放浪する玄徳というのは、たかりに歩くやくざそのものだったのかもしれません。
 一方で、蒼天航路の玄徳の性格というとちょっと違うかなという部分もありました。
 正史には穏やかで物静かでありという事が書かれており、やはりただのやくざ者にない風格があったと思います。
 その辺をねじ曲げるのは彼の実像を描くにはおかしかったし、その後の行動的に見えても、朝廷に入ってもそれなりの風格がある人物であったことはかなり確かなことと思います。

 あと玄徳の能力的な者ですが、評論家の書く者を確認する限り玄徳という男は凡庸であり、他の曹操と孫権に比べて著しく劣るという評価が定説になりつつありますが、私はそれは少し違うと思います。
 後々物語が進むにつれて描かれることになるのですが、劉備が諸葛亮に会うまでは彼自身の才覚によるところが現実的には大きいですし、この物語の劉備の最大のクライマックスである漢中攻防では曹操との戦いに法正とともに戦い抜き打ち破ったのは彼の戦闘的才能であるわけです。

 また適正な評価を描きたいという一方で、彼にはリーダーとしての予想という者を描きたいと思います。
 彼は三国志演義では誰からもすかれる聖人であったように描かれておりますが、彼は文官からは不人気であった実情が見えてきます。それどころか玄徳の配下で政治が出来る者は諸葛亮ただ一人しか引き寄せられなかったという印象があります。

 こういう閉塞した時代で、リーダーシップという者、あるいは人望という言葉が私語になる時代だけに、ビジネスに描かれるリーダーシップや、今社会に必要とされるリーダーシップとは違った者を玄徳という人間の実像をふまえながら、脚色ではなくエゴではなく描かれると思います。

◇◇
描く上で、構成の甘い点、文章の甘い点誤字脱字など多数ある状態で皆様にご迷惑をかけております。
真三国志や月姫抄については、その点をふまえ読みやすさを考え、ダウンロードで本として読める形のもの、つまりPDF版の公開を予定しております。

そちらも是非お待ちいただければと思います。


 


2008年06月07日(Sat)▲ページの先頭へ
真三國志「関羽・酔っぱらいに閉口する」−1−
 背の高い眼光鋭き男が、不釣り合いなほどのどかな農道を歩いていく。
髭は伸び放題のび、髪の毛も大きく伸びている。顔はかなり日に焼けたせいか、あるいはアレルギー体質なのか、酒を飲んだように真っ赤にしている。
 だが衣服はしっかりとした者をまとい、その辺が唯一人間らしいと言えば人間らしいが、その他はあまりまともとは言えない。異相の男と言えた。
 本人はあまりそうとは思っていないが、体格が人並みはずれて大きい所為かとても偉そうに見える男である。
 「これはこれは。」
 と頭を下げる農夫もたびたび居る。そんな彼らは腰を低くして挨拶はするが、恋にすぐに目を離して、なるべく関わりたくない様子である。
 「本当にあんな訳のわからない男に、子供の勉強を教えてもらって大丈夫か。」
 少し不満そうに彼が去った後、ある農夫は自分の妻に小言を漏らす。
 「でも、領主様によると何でもこの辺一体で一番、孔子・老子・孫子とか何やら学問に詳しいらしいよ。
 また弓の名手でもあり、力持ちで青竜刀を振り回すらしいの。
 我が子に出世をしてもらうには文武に優れてもらわないとやっぱりね。」
 妻はそう答えるが、決まってこの農夫は怪訝そうな顔をする。
 「本当にそうなら、なんでこんな田舎で寺子屋の先生をして居るんだ。」

 その質問には彼・・・・関羽自身の方が聞きたいところが本当であろう。
 だからこそ、農夫達が怪訝な顔をすることも不本意ではあるが理解が出来る。
 (俺だって、こんなところでガキ相手に学校の先生などしたくねぇつうの。)
 思えば領主の口利きでこの村の有力者に世話になることになり、初めてここへ来てからずっと迷惑そうな顔を領民達はして「よそ者」と突き放してきた。
 「あっこれはこれは関羽どの、今日も先生よろしくお願いします。」
と、村長も丁寧に応対し頭を下げるが、どう見ても面倒はいやだと言わんばかりに避けている様子が明らかにわかる。
 (きっと、領主は手が余るからこの村長に自分の面倒を押しつけたのだろう。)
 邪魔者にされているのは関羽自身わかっている。だからといって嫌われているから自分が出て行くという健勝な考えは一欠片もない。
 むしろ、
 (お前らと、俺とは違うんだよ。)
 と思うとこの男は優越感に浸ってさえ居たのである。

 とは言え、この境遇にこの男は満足しているわけではない。
 「こらっ、人の髭を引っ張って遊ぶな。」
 「こんな問題もわからなくて、テメエは張飛かっ。」
 そう言って、細かく無骨に見える彼だが意外にわかりやすく、子供達に勉強を教えなかなか目下の人間に対しては(ちょっと押しつけがましい感じもするが)面倒見のいい男で、意外と子供の先生にはあっている。
 とはいえ、ガキの面倒を見たり、片田舎で村長の家に居候するためにわざわざ、北の地からやってきたわけでもなければ、頑張って学問を修めた訳でもない。
 (それなのに、ガキの面倒ばかり見させられて。)
 しかも今は、ガキよりももっと手のかかる面倒を押しつけられているような気がする。
  


2008年06月06日(Fri)▲ページの先頭へ
サボテン
触れれば針を刺すかも知れない
そうすることでしか
自分を守れない事は
弱いかも知れない

でもどんなに心が渇いても
私の心は枯れることはない
たった一人でも
綺麗な花を咲かすよ


2008年06月05日(Thu)▲ページの先頭へ
月姫抄9
 そう月姫は自嘲しながら、先ほど舞った舞台の更に上の上の館の方を見上げ、今一度過去に思いをはす。
 (お館から聞こえたあの笛の音。水のように限りなく澄んでいながら、深い悲しみが込められたあの音色。)
 月姫が建前賓客と言う形式を取りながら、実際には須江氏の捕虜としてさらし者に遭うかのように、浦島の主に舞の披露を最初に命じられた時、ふとそちらの方からあの音色が聞こえた。
 その笛の音色は悲しみを歌っているのに、時に音は強く、また正確で、嘆きだけはない物が感じられ、哀れみは全く持たなかった。だからこそ余計切ない……そんな苦しさを感じてその時涙が溢れるのを押さえられなくなりそうだった。

 「月姫殿もうお帰りですか。」
 そんな過去に月姫が思いを馳せていると、先程の舞で笛を伴奏してくれた武将印野維盛が、弟で鼓の名手である宗清とほっかむりをした貧相な顔の従者を連れ、藍色の鮮やかな衣装をはためかせ、息を切らせて駆け寄ってくる。
 印野氏は、浦島家に属する豪族の中では古くから堺と通じ豊かな一族であった。その三男維盛は生来派手好きで、女子のように綺麗な服を好んだ。また家中一の笛の名手と呼ばれており、真っ赤な笛を愛用して姫が舞うとき伴奏をすることが多く、時折その衣装の秀麗さが逆に月姫には閉口させたりするが、性格は単純で悪い感じを相手に持たせるタイプではない。普段から月姫に対しては何かと気を掛けてくれる。
 「先程の舞、他の姫君達に全く臆することなく毅然に踊りきる姿が、戦いに赴く姿と重なり……戦勝祈願の舞としては、ふさわしいお姿でしたな。」
そう言って維盛は声を掛けて喜ばせようとする。
 (甕姫といい、維盛いい……同情してくれるのはありがたいが、お世辞にしかならない。)
 それが本当でないからこそ、あの場の人達はああいう冷めたりあるいは侮蔑を含めた反応しかなかったのである。
 結局その程度でしかなく自分は、いくらむっとした所でくだらない存在なのだ。
 (私も、お互いを卑下し合うことで満足しているあの女達も結局下らぬのだ。ただ時代に巻き込まれ、男達が戦いにどうするかで自分達は何も出来ずに翻弄されていくのだから)
 「それなのに維盛は何故信長との戦いに行かぬのだ。」
 不意に月姫は挑発的にじっと見つめ問いかける。


2008年06月04日(Wed)▲ページの先頭へ
真三國志-20-
 でも逆に言えば突拍子もないことを言って話題をそらしたのは、玄徳自身反論を出来なかった事に他なかった。もし本当に自分の軍が強いと思えばあくまでそう主張すればそれで良いのだが、それが出来なかった。
 (これからの軍だから、鍛えれば強くなる。と本当は言うべきであろうが、それが出来なかった。)
 「所詮、一族に金を出してもらって洛陽に行ったのに、遊び続けて結局廬植先生の下でしっかり兵学など学ばなかった報いだ。
 用兵などの専門的知識を勉強しなかったお前が、兵を強くして一軍を率いると言うことが出来るはずがない。俺様と違って所詮傭兵の大将が限界なんだよ。お前は。」
 公孫賛はそう言って玄徳を笑って、去っていった。

 (確かにそうなのだ。)
 玄徳は廬植の許で学んだが最後まで用兵を理解しきれなかった。その所為で勉強する気も失せて、最後まで勉強しなかった。
 (彼らをどうしようか)
 彼らをつかってどう功名をたてようか。と言うことよりも、彼らの命を無手谷してはならないという思いが、玄徳を気重にする。
 数は集まった。だが統率の取れた軍にするには寄せ集めの軍団であるからこそ並の困難ではない。それに相手は黄巾党人数が違う上、統率する者にも知勇に優れた者はたくさんいる。そんな者が襲いかかれば何とかまとめている状態の玄徳など、あっという間に蹴散らされてしまう。
 (蹴散らされないだけの芯がない上。追い払う力強さが、寄せ集めの我らにはない。)
 街にはいよいよ「黄巾党を討つ者を求める義勇軍の募集」の立て札が立てられたが、このまま玄徳の部隊が乗り込んだとしても、部下達を無駄死にさせるだけである。
 (そうすると、このまま我慢して用心棒をしながら力を蓄えなければなるまい)
 そしてそれをいつまで続ければ、打開策が見つかるのか・・・・ただでさえ公孫賛に比べ後れを取っているのに何年かかるともわからない現実に思わずため息が出る。

 「いい若者が、義勇軍の立て札を見て、何年寄り臭くため息をついているんだ。」
 そう言う声と同時に、とてつもない力で玄徳は背中を思い切りたたかれ、息が詰まる。思わず涙が出そうになる。
 (なんだなんだ。)
 「おうおうっ、皆まで言うな。俺様に付いていけば大丈夫だ。出世させてやるぞ。」
 ぐはははははっ
 という言葉とともにあたりに酒臭い香りが立ちこもる。
 「おう。俺と一緒に天下を取ろう。」
 「テメエは俺軍に入って出世をしようぜ。いやだとは当然言わないだろうな。」
 そんなことを言って丸顔を真っ赤にした酒飲みの危なそうな男が豪快な笑い声と一緒に有無を言わさず周囲の者達の首根っこをつかんでは、酒臭い息をまき散らしながら、上機嫌に恫喝しながら歩いていく。
 (まるで、嵐のような男だな。)
 そう言いながら玄徳は背中をさすり、ふとある考えが頭をよぎる。
 そして、先ほどの憂鬱が嘘のように満ち足りた笑顔を浮かべる、みんなが迷惑そうに見ているその男を親のように温かい目で見送った。

(第一話玄徳の章「不良青年玄徳の憂鬱」−終劇−)
次回、第二話関羽・張飛の章に続く・・・・
 


2008年06月03日(Tue)▲ページの先頭へ
真三国志−19−
 そう言いかけて、公孫賛は考え込み言葉を飲み込もうか迷う。
 でも意を決して玄徳へ言う
 「用心棒とは言え、一軍の将になったのはめでたいことだが、こんな役に立たないならず者だけ集めてどうする気だ。お前一人でどうにか出来ると思っているのか?」
 「何っ。」
 部下の一人が怒り襲いかかろうとするが、公孫賛がにらみつけると動けなくなる。
 「俺は、お前を買っている。お前なら、俺様の副将ぐらいならなれる才能がある。
 最低でも、こんな奴らと一緒にやって居るぐらいなら生きてなどいけないぞ。」
 そう言うと公孫賛は自分の部下になれと高圧的に言い放つ。その態度に周りがざわめく。が、北方の異民族から恐れられるだけの男であるだけあって納得してしまう部分が周囲にあった。
 玄徳も、その言葉の勢いに屈するように思わず顔を伏せて考えた。
 だが、意を決して意外な言葉を投げかける。
 「そう言うお前こそどうなんだ。」
 「どうなんだ・・・・って?」
 いきなり逆質問をされ、完全にとまどうし、その意味がわからない。
 どうだと言われたって、玄徳と違い公孫賛は順調に出世し、名声を上げている。その為精力的で年は増え中年になりつつあるが、日々充実しているせいか却って昔より活力がある。どうして玄徳に心配されなければいけないのか、そっちがわからない。
 「それが心配なんだよ。」
 玄徳は言い切る。
 うまくいっている間は、多少疲れていてもテンションがあがっているから問題がないのだが、歯車が一端狂ったとき、急激に名声を上げてきた以上逆に崩れるときは一気に来る。
 (まして、公孫賛は人にすかれるタイプではない。強いからこそ傲慢であり、一つ躓いたとき、良いときは笑ってくれる人たちも一気に敵対化することになる。そうなれば成り上がり者だけに滅びるのは早い。)
 「そうなったら、俺が助けてやる。遠慮なしに言えばいい。」
 「ばかな。」
 公孫賛は笑って見たが、その馬鹿さが玄徳の良いところだと言えないことはないと公孫賛は思う。
 自分が立場的に下であっても公孫賛の言うことを黙って聞いていたら、部下達は良い気持ちがしないだろう。だからこそ、玄徳は敢えて勝ち気なことを言って部下達に恥をかかせないように気を配ったのだ。


  
 
 
 


2008年06月02日(Mon)▲ページの先頭へ
真三國志-18-
「廬植の門下の人間はみんな元気だったぞ。官渡に行く前にお前が来てくれたら、みんなに話をしてあげれたのに残念だったなぁ。」
 そういうと玄徳はたくさんの門下生の仲間をあげる。
 「○○は克州で県令をやっていたり、△△は逆に黄巾党でブイブイ言わせて居るみたいだぞ。あと・・は今は山賊で、・・は商人の・・に援助を受けながら、兵学を教えて、その門下がどこどこで・・・・」
 たくさんの名前が話を出てきては本当にうれしそうに話をして、尽きない。
 公孫賛は意外な感じがした。
 玄徳は廬植の門下では落ちこぼれというか、あまり勉強をしに来ることはなく遊びまくっていたが、しっかりと勉強をした公孫賛よりもその者達と接する機会が短いにもかかわらず、仲には玄徳を馬鹿にしていた者も多かったが、そんな彼らと玄徳は仲が良い。というか、その彼らの方から玄徳に官渡に向かう際は会いに来たと言うことらしい。
 (妙に人望がある男だと思ったが、昔よりもなんかこの男は人気があるというか。)
 (それ以上に、少し若い時期が過ぎると昔の人間が懐かしいのだろう。)
 「で、その道中に○○の友人の・・…と言う奴が黄巾党にいて・・・・」
 「・・・・という男が・・…と言うところに居て、そいつが・・・・」
 それから永遠と玄徳の官途へ向かう先々の男の名前が次々と出る。彼らと話した面白い話や、英雄達の噂、官軍・黄巾党の動静など、聞いた話を時におもしろおかしく脚色を付けながらとても楽しそうに、とても幸せそうに公孫賛に聞かせる。
 (別に馬を届けたことがたいした効名や出世につながるわけではないのに、長々と自慢をいいやがって)
 「何を笑っているのだ。」
 ふとそんな思い出話が楽しく珍しくしゃべり続けた玄徳は、苦笑いする公孫賛の表情に気がつき、ふと興味深そうに聞いてくる。
 「相変わらずだな。やっぱり。」
 玄徳は普段物静かな感じだが、人と話すのが好きである。というか人間と接するのが好きなのである。
 「それを張商人は勘違いして、緻密に玄徳は情報収集して、人を操り大事をなしたから。と今回の官渡への輸送を高く評価しているようだが、この男には本当はそんな気はないのに、勝手に勘違いして大人物と思っていて笑えるよな。」
 公孫賛はつぶやく。

 本当にこの男は、人間と接するのが好きであり、情報を聞き出したのはこの男の性格からしてたまたまなのである。たまたま話をしていたら、たまたま懐かしかったり、そういう穏やかな性格だからこそ、相手が善意で教えてくれただけである。
 玄徳の方から人が思うような深く意図があったり、聞き出そうと必死になっているわけではなく、今回の成功も彼の努力とか才能と言うよりも、積極的に人好きの玄徳が人とたくさん楽しんであっていたら、その人間の数だけ情報と協力者が彼の意図とは別に出来て、結果が自然に味方したのだと玄徳とのつきあいが古いからこそ公孫賛にはわかっていた。
 「でもその結果で人間が集まった。それで、どうするつもりなんだ?玄徳。」

 


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