猫の小道「命日」下編



2008年07月14日(Mon)
猫の小道「命日」下編
「これって猫のブラシだよな。」
間違って鞄に入っていた物を取り出して、取り替えようと家に戻る。
その目の前を着飾った妻が出かけていく。

☆☆☆
「そういえば、今日は妻の初恋の人の命日か。」
 事情が分かり頭では納得したが苛立った気持ちが頭をよぎる。
 なくなってから月日がたっているのに、未だに妻に残る奴の残像が憎たらしく、同時に自分でない人間を大切にしている思いに裏切られたような気持ちがする。
 「・・・なによ。木津ちゃん・・・怖い顔をして弁当食べていて。」
 ぽんと背中を叩かれて、男はあわてる。しかもそれが先輩で違う部署に今は勤務している君津であることを知ると余計慌てる。
 「どうしたの奥さんに逃げられたような男のような顔をして。」
意地悪く冗談のつもりで相手は言ったと思われるが、図星だったので思わず黙る。
とはいえ色々こいつを相手だと気まずいので席を外す。
 「あっ逃げるんだ。そんなに初めてのキスの相手が怖いの」
 「ぶっ。」
 思わず吹き出す。
 「なして、そんなことを言うんだ。昔の古傷をえぐるようなことを。」
 普通そう言うことは黙っている物だし、昔の恋人なんて気まずいだけに決まっている。
 「それなのに良く、そんなことを言えるよな。」
 「良いじゃない。私にはそんなことも思い出なのだから。」
 彼女はそう言って平然としている。

 まぁ彼女は結婚していないから、そう言うことを言えるのかもしれない。一方の男の方は結婚しているからそう言うことを気にしてしまうのである。
 (妻もそうなのだろうか。彼女にとってもあいつは思い出なんだろうか)
 「なぁ、女はいつまでも昔の思い出を忘れられない物なのか。」
 (俺は、こいつのことを必死に避けているのに。)

 それに対して、彼女は首を振る。
 「昔の思いでは残念だけど時間が勝手に消し去っていく。
 だから大切にしたい思い出だけは大切にしたいと思ってしまうものなのかも。」
 そう言うと、女は男の弁当の中から卵焼きを一つつまみ口にする。
 「でもだからといって、未練があるわけではないの。
 貴方と分かれなくて結婚なんかしてたら上手くいくはずがなかったから。
 だって、こんなにおいしい卵焼きを作ったり、貴方のそのシャツを毎日洗ったりなんか出来ないし。」
 「確かに。」
 こいつは顔に似合わず、整理が苦手でいい加減な性格をして、なにより仕事が大切な女である。あまり主婦のイメージなんかない。
 「結局、結局永遠の愛と言うけれど……
 思い出なら好き勝手で良いのかもしれないけれど、永遠に一緒にいると言うことは結局現実なの。現実の中でお互いが必死になって家庭を作っていくしかないと思うの。」
 だから。そう言って立ち上がり、卵焼きをもう一つつまみ立ち上がる。
 「だからこんなおいしい卵焼きをつくる奥さんを大事にしなさい。
 多少気にくわないところがあったとしても、お互いに現実を作っていく気持ちがないと成立しないわけだし、今ある現実は一体何出てきているのか。
 色々あるのかもしれないけれど、結局お互いが一番に思うからこそ今があることを忘れないで。」




   


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カレンダ
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