月姫抄8 |
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2008年05月27日(Tue)
月姫抄8
(どうして。)
「天照鏡の在処を知るものは二人いてはならぬ。私の物だ。私が助かればいつでも須江家は復興できる。その唯一の手だてをお前にも渡さぬ……」 そう言ってとどめを男はさそうとする。しかしそれと同時に、大きな強い弓矢がどこからか飛び当主の顔を貫いた。 (あれからどれほど黒い海を漂い続けたのだろうか。) 「奴の願いとはいえ……この者を助けて何になるというのか。」 意識の片隅でそんな男の激しさの宿る言葉が聞こえ、雨のように雫が顔に落ちる。 『この者は瀬戸内の守り神……殺めることはなりませぬ。殺めれば禍を、大事にいたせば幸せをもたらす者でしょう。』 そんな母親のような、女神の声が男の声とは逆にやさしく聞こえていた。 しかし…… 「そのような迷信を何故そなたも、奴も信じる。 下らぬ。全く下らぬ。」 (下らぬ……か。) その言葉を聞いたとき、月姫は瞳から落ちた水滴が海の水なのか、それとも涙なのか刈らなかった。あんな形で養父に裏切られた事も、そんな自分も、それを悲しいと言うのもまたその男の声が言うとおり「下らぬ」事にしか思えなかった。 「万事下らぬ事なのかも知れぬ。」 先ほどの戦勝の舞も、それどころか生きることさえも。 (現に、どんなに必死に舞ったところで誰からも愛されぬのだから。) 上辺だけでは、何とでも人は誉める物かも知れない。だからといって大切にしてくれるほど愛してくれる訳ではない。 例えば月姫が主から死を賜ったとき、誰かが命を賭けてまでその舞を大切にして彼女を守ってくれるというのか。いいえ、そこまでしなくてもよい。 もう月姫の舞を見られぬとなげく者があの中で本当にいるだろうか。 「くだらなくない物とは、あの音色のように……真に心と一つになれる物だけなのだ。 それに較べれば、あの男や下女達の言うとおり……私の舞などくだらなき物に過ぎない」
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