月姫抄-その物語の背景-



2008年04月10日(Thu)
月姫抄-その物語の背景-
 瀬戸内海を舞台に「巫女」として翻弄される少女の物語。
 刻は戦国の世、物語は織田信長の前に常勝の毛利水軍が壊滅した所から始まる。
 少女は人質とされているところを、若き水軍の将に捕らわれる。瀬戸内の至宝である月鏡の守り神として、厚遇されるものの実質的には自由のない囚われの身に過ぎなかった。
 そんな彼女は現人神として扱われる一方で、人々は何も出来ずに運命に流されるだけと軽蔑する者が多く常に孤独で、月を見つめる事で自らの寂しさと運命をも見つめているようだった。
 だが、それでも彼女に流れていた時間織田信長の配下「羽柴秀長」の使者によって突然激流に変わる。織田信長が、敵である水軍に月鏡とその巫女を献上するように命じたのだ。
 若き水軍の将の天才的な戦略により一枚岩を誇っていた水軍で会ったが、彼が行方不明となった為、月鏡を出して信長に服従するか、あるいは抵抗するか意見が分かれ、新たなる火種が巻き上がる。彼女の運命はいかに。

 戦国時代織田信長は後生、革命的な戦略や政治力から英雄と呼ばれている。しかし当時の人々にとって彼は、叡山を焼き、本願寺派を屠殺し、数多くの部将を討ち果たす姿から理解できない血に飢えた魔王のように呼ばれていた。
 そんな彼が毛利の水軍を打ち破ったとき、どんな心理に追い込まれたのか。無敵だった水軍さえもう失いすでに武田は滅び抵抗する敵国はなくなり、自力にも他力にもこの絶対的な絶望を回避する術はなかったのである。
 かくして人々はパニックを起こし、疑心暗鬼が発生する。死を恐れるからこそ、人々は行動し混乱を起こしていく。
 その一方でそれを冷静に見つめる少女がいる。巫女である主人公である。
 彼女は半ば人質としての立場ながら、庇護を受ける者達の2度の滅亡を経験している。そのことで彼女自身の巫女のしての存在意義が否定され軽蔑され人々と距離を持つようになる一方、逆に思春期を過ぎ運命に流される少女から否定されたことで逆に自らの存在意義を問いかけるきっかけになり、また巫女としての非人化した者から自分自身を問いかけることになるのである。

 瀬戸内の水軍を舞台にした物語として戦国のジャンヌダルクと呼ばれる「鶴姫」の物語があるが、今回描くのは全くのオリジナルである。
 だが、戦国の英雄であり茶器や名宝のコレクターでもあった信長や秀長の歴史の人物が登場し水軍に対し謀略戦を仕掛けたり、実は月鏡が源平合戦で壇ノ浦に沈められた三種の神器の一つであったなど遊び心に溢れていながら、歴史上の物語としてのしっかり息吹を与えている。また水軍の兄弟部将の対比はミステリヤスな謎解きを含み読む人を引き込む。
 しかし、この物語で一番見つめなければいけないのは、巫女として特別な存在でありながら、本当は孤独で無力で、でも心の中に普通の人と同じように寂しさと情熱を秘める故に、それを押さえようと苦しんでいる、等身大の思春期の少女の内面の葛藤なのである

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カレンダ
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